第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
静かに首を振るリヴァイを見て、シムズは身を乗り出した。
「ならば、ぜひイカホに行くべきじゃの! 最高にいい湯なんじゃ、温泉郷になっておるが、わしの贔屓は奥まった源泉近くの元湯でのぅ。ひなびた小さな宿じゃが、本当にいいところで…」
その後もシムズの “イカホへの熱のこもった話” はつづき、イカホがいかに素晴らしい温泉なのかは十二分に伝わった。
リヴァイがマヤを連れていこうと思って、実際にこうして来ているほどには。
「兵長、見てください!」
リヴァイがここ “椿の湯” に来たいきさつを思い返しているあいだに、マヤは窓の外から内へ関心を移していた。
マヤが指さす壁に目をやれば、そこには掛軸が。描かれているのは “雪中紅椿とメジロ” だ。
白い雪を枝にたわわに乗せた椿が、はっとするほど紅い花を大きく咲かせている。その椿の花をのぞきこむように枝にとまっているのは小さな鳥。
やわらかな雰囲気の黄緑色… いわゆる鶯色(うぐいすいろ)の羽毛で覆われた愛らしい小鳥。目のまわりを丸く囲むアイリングと呼ばれる白い羽毛が生えており、それが非常に愛嬌があって可愛らしい。
「メジロだわ、可愛い!」
「……詳しいな」
「子供のころ、うぐいすと間違えたことがあって」
「うぐいす…、ホーホケキョか」
「………!」
リヴァイの口から真面目くさった声で “ホーホケキョ” が聞けて、マヤは思わず顔をまじまじと見てしまった。
「なんだ…?」
「だって兵長がうぐいすの鳴き真似をするとは思わないから…!」
「………」
ぷいと横を向いてしまったリヴァイを見て、慌てて言い添えた。
「とてもお上手でしたよ?」
ふふと笑うマヤ。
気恥ずかしいリヴァイは、少し機嫌の悪そうな声で話のつづきをうながした。
「……で、うぐいすと間違えて?」
「あっ、はい、このメジロをうぐいすだと間違えていて、そのときに “あれはうぐいすじゃないよ、メジロっていうんだ。ほら目のまわりが白いだろ?” って教えてもらったの。メジロは、うぐいすよりも鮮やかなうぐいす色なんですって」
「ほぅ…」
マヤの情報をもとに改めて掛軸を見れば、確かに椿の紅と雪の白に映える、美しい鶯色(うぐいすいろ)の小鳥の目の周囲は白い。