第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「ピクシスの爺さんなら、きっとまた来るだろう」
「そう思うか?」
「あぁ。ユトピアは来るのに値する素晴らしいところなんだろう?」
リヴァイのこの言葉が、シムズの顔を最大限に輝かせた。
「そうじゃな! このユトピアは最高じゃ。盛んな牧羊のおかげで、いつも新鮮なラム肉で美味い酒が飲めるし」
そう言って笑うシムズの皿には、酒によく合うラム肉のクミン炒めが山盛りだ。
「それに…」
美味しそうな料理と酒が乗っている大きな木製のテーブルを、こぶしでトントンと叩きながら。
「白樺のテーブルや椅子は自慢の工芸品じゃ。住民もみんな気がいいやつばかり。気候も南と比べて冬が厳しいからのぅ、四季がはっきりして春夏秋冬それぞれに楽しみがあるんじゃ」
「ほぅ…」
いいところで相槌を打ってくれたリヴァイに気を良くして、ますますシムズの舌はなめらかに。
「このあたりの山は自然に恵まれて春は桜の花見で酒が進み、夏は爽やかな山からの風をうけて盃の酒が揺れる。秋は紅く色づく山を愛でた夜には月見酒、冬は冬とて吐く息白く雪見酒」
「おいおい、酒が飲みたいだけじゃねぇか」
「はっはっは! 人生の楽しみは酒じゃろうが。だがな、無論ユトピアはそれだけじゃないぞ。リヴァイ兵長、湯はお好きか?」
「……湯?」
「湯じゃよ、湯。温泉じゃ!」
「あぁ…」
地下街で生まれ育ち、調査兵団に入ってからは任務に身を捧げているリヴァイには、温泉という存在は知っていても無縁のもの。王都の貴族の屋敷で立派な大浴場に入ったことはあっても。
「酒に溺れるのも女にうつつを抜かすのも、まごうことなき人生の醍醐味じゃが、温泉もまた良いものでな。酒とは違った趣があるでのぅ」
シムズはグラスに残っていた酒をぐいと飲み干すと、追加の酒を注文した。
「ユトピアと王都のあいだに横たわる山にな…、いやあいだといってもうんとユトピア寄りじゃからな、ユトピアの山といってもいいくらいじゃが…。そこにいい湯があるんじゃ、イカホ温泉といってな、ちいっと知れた名湯なんじゃが知っておるかの?」