第29章 カモミールの庭で
イルザの声色には、かすかに非難が感じられる。
………!
マヤは焦った。
……そうだわ。あの場で言わなかったのは不自然だわ。どうしよう… 謝らないと。
「ごめんなさい。アマンダさんと盛り上がっていたので言い出せなくて…」
レイが援護する。
「あぁ、そうだろうな。おふくろがガンガンしゃべってちゃ話に入るに入れねぇよな。それに…」
両手のひらを少々大仰に肩のところまで上げて、おどけてみせる。
「どうせそれまでに散々オレのことを訊きまくって、マヤをフラフラに疲れさせたんじゃねぇの?」
イルザはそのときのことを思い返した。
……確かにアマンダはマヤさんにレイのことを矢継ぎ早に質問していたから、見ていて心配になったくらいだったわ。それにリックの話が懐かしくてアマンダと随分と盛り上がった。マヤさんが言い出せないのもうなずけるわ。
「そうね、レイの言うとおりかもしれないわね」
「……だろ?」
レイは軽快に笑って、それとなくマヤにも片目をつぶってみせた。
ホッとマヤが胸を撫でおろしたところへ、リックが紅茶を運んできた。
「お待たせいたしました」
慣れた手つきでカップ&ソーサーを三人の前にそれぞれ置いていく。
「あっ…」
置かれたティーカップを見て、思わず声が漏れてしまった。
リックとイルザを再会させることで頭がいっぱいだったマヤは、この店のもっとも特徴的なルールをすっかり忘れていたのだ。
それはお気に入りのティーカップで紅茶を飲めること。
何も言わなければリックが客に合わせて選んでくれるのだが。
今マヤの目の前にかちゃりと置かれたティーカップは、桔梗の花が咲きこぼれるデザインのもの。
「キキョウ…」
それは最初に来店したときにリヴァイがプレゼントしてくれた桔梗のティーカップとはデザインが異なっていた。リヴァイの贈ってくれたものは白磁に上品に描かれた優美な桔梗の花が印象的だが、今日のカップはカジュアルにたくさんの花が描かれていて、カップにもソーサーにも桔梗の青があふれていた。
「マヤ様はキキョウがお好きかと…」
カップに見惚れているマヤにリックの控えめな声が降ってきた。