第29章 カモミールの庭で
よく見ればイルザの肩が少し震えて、飾ったばかりのカモミールのコサージュが揺れている。その様子を視界に入れてレイはつづけた。
「イルザも驚いただろう? まさかあの紅茶の魔術師がこんな片田舎にいるなんて」
「……ええ、そうね…」
「ということでリック、オレたち三人に美味い紅茶を飲ませてくれ」
「……かしこまりました。こちらへどうぞ」
席に案内するリックの背中も気のせいだろうか、いくばくかの動揺を隠せないでいるように見えた。
奥の喫茶室につながる白い扉を抜けて、案内されたのはマヤが最初にリヴァイと訪れたときと同じ中庭がよく見える場所、一番奥にある窓際の席だ。
テーブルにセットされている椅子は二脚。
リックは三人が座れるようにテーブルと椅子を持ってきて並べた。そしてメニューブックを差し出すと、いつもどおりに少し離れたところで待機している。
「イルザさん、何にします?」
メニューに目を落したまま黙っているイルザに声をかける。
「久しぶりで…、何を注文すればいいかわからないわ。マヤさんのおすすめのお店なんだから、マヤさんの注文するものと同じにしてくださらない?」
「わかりました。じゃあオリジナルブレンドにします。レイさんは?」
「そうだな、オレもオリジナルブレンドにするか。リックの調合したブレンドが一番美味ぇに決まってるもんな」
レイはリックを呼び、そつなく注文を始める。
「オリジナルブレンドを三つ。オレはストレートだが…」
私も… とうなずいているイルザとマヤをちらりと見てから。
「全員ストレートで。スコーンをイルザとマヤに」
「オリジナルブレンドをストレートで。スコーンは二人前でよろしいですかな?」
注文の確認をしたリックの様子は淡々として、もう動揺の色は全く見えなかった。
「あぁ、頼む」
「かしこまりました」
一礼をしてリックが厨房に消える。
部屋に残された三人のあいだに気まずいような、なんとも言えない空気が支配した。
イルザはずっとテーブルだけを見て下を向いている。
レイとマヤは顔を見合わせ、声に出さずに口パクで会話をしている状態だ。
“おい、どうするんだ?”
“レイさんが何かとりあえず話しかけてくださいよ”
“……わかった”