第29章 カモミールの庭で
白い扉が音もなくひらいて、マヤを紅茶の香りへいざなう。
「……あ」
今までここを訪れたときにはいつも、他に客がいなかったのに。
今日はリックが接客している。
入店してきたマヤを素早く認識すると、
「いらっしゃいませ」
と柔和な笑みを浮かべて、量り売りの茶葉を客が持参した瓶に詰め替えている。
……どうしよう。このままだと、リックさんと話す前にイルザさんが来ちゃう…!
マヤは焦った。
これでは一足先に店に来た意味がなくなる。
リックにイルザが来ると言うつもりではない。やはりそこはサプライズで驚いてほしいから。
ただ、その前段階として王都からの客があることは伝えて、喫茶の席も確保したい。
行き当たりばったりの作戦であるからして、どう転ぶかはわからない。
なんとなく先客のいない店内で、リックにふたことみこと話してからイルザと引き合わせたかったマヤ。
それができなくなりそうで、思い切り焦る気持ちが顔に出ていたらしい。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
リックは丁寧に先客を送り出したあとに、すっとマヤのそばまで来ると。
「マヤ様、何かご心配事ですかな?」
「えっ…?」
「そのようにお見受けしましたゆえ」
「あぁ…、いえ大丈夫です、すみません。お席が空いているか、ちょっと心配になっただけです」
「ご安心ください。マヤ様のお席は、いつでも空いております。今日はおひとりですかな?」