第29章 カモミールの庭で
「まぁ! こんなにも可愛いものが天井まで埋め尽くしているわ!」
イルザは連れてきてもらった雑貨屋の様子に興奮している。
かつてミケを案内したことのある雑貨屋は、相も変わらず床から天井まで可愛らしい雑貨でぎゅうぎゅう詰めだ。
店の一角にはイルザが所望している髪留めなどのアクセサリーから帽子やバッグ、ストールや手袋にハンカチなどの小物。反対側には陶器やガラスでできた食器や飾り物。
「夢のような空間だわ!」
飛び跳ねるように店内を見て回るイルザ。商品に夢中になっているので、そのすきにレイとマヤはこそこそと打ち合わせをした。
「このあといよいよ… だな。準備はいいか」
「はい。私が最初に入店して、あいさつしますね」
「少ししてから、オレが連れてく。そのあとは二人の反応を見て…」
「……臨機応変にいきましょう」
「だな」
意見が一致したところで、イルザがそばに寄ってきた。
「二人で何を見ているの? 可愛いものでもあるのかしら?」
「あっ、ええ… そうです。これなんかイルザさんにお似合いだと思うのですが…」
目の前に陳列されていた、かんざし型のヘアアクセサリーを持ち上げた。
数あるなかでも一番落ち着いた色彩の、上品なかんざしだ。ワンポイントに小さな鞠のような玉がついている。
「いいわね」
イルザは試しにかんざしを髪に挿して鏡に映しては左右に頭を振って、満足そうに微笑んでいる。
「買うわ。マヤさん、あちらに可愛い子猫のガラス細工を見つけたの」
イルザに引っ張られていくマヤをレイは見送って、内心でつぶやいた。
……さぁ思う存分買い物してくれ、イルザ。お楽しみはそのあとだからな。
その後30分以上は雑貨屋にいただろうか。
あれもこれもと商品を手に取っていると、時間はどんどん過ぎ去っていく。
雑貨屋を出たイルザの手には大きな紙袋が一つ、中身はかんざし以外にも人形やガラス細工、籐で編まれたかごバッグまで盛りだくさんだ。
「いいお買い物ができたわ。マヤさんと色々見て回るのが楽しくて、はしゃいでいたら喉が渇いたわ」
レイとマヤは思わず顔を見合わす。
無理に連れていかなくても、イルザからの言葉は渡りに船。
「私もです、イルザさん。美味しい紅茶専門店にご案内しますね」