第29章 カモミールの庭で
受け取るか受け取らないか少しだけ躊躇したが、ここはイルザもいることだし場の雰囲気を壊さないためにも素直に受け取ることに。
「ありがとうございます」
兵服のジャケットの左胸につけかけたが、そこには自由の翼のエンブレムが。
「あ…」
マヤは白薔薇のコサージュを右胸につけた。
「まぁマヤさん、とても素敵よ! その濃いキャメル色のジャケットに白い薔薇が映えるわ。ねぇレイ?」
「あぁ、思ったとおりだ。マヤにはやっぱり白い薔薇が似合う」
「そうね、でもマヤさんは綺麗なお顔立ちをしているから、白薔薇だけではなく他の花でも似合うと思うわ。たとえば赤い薔薇でも」
「いいや、マヤは白薔薇だけが似合う」
「うふふ、それはレイの願望ね」
レイとイルザのやり取りを恥ずかしそうにうつむいて聞いているマヤの姿を間近で見た店主は、その肌の美しさに見惚れた。
白く透きとおるような頬が、うっすらと紅く色づいて。胸元に咲いている白薔薇のコサージュからの香りとあいまってマヤ自身が薔薇の花のように見える。
……この人なら仕方ないか…。確かにあたしが作ったコサージュ、めっちゃ似合ってるもの。
来店当初は眼中になかった調査兵のマヤが、貴公子のイケメンに好意を寄せられているのを目の当たりにして、店主は自身の恋心が散ってしまったことを悟った。
……薔薇のコサージュはサービスしようかと思ったけど、やっぱやめた! ちゃんと頂くものは頂くわよ!
店主はひとりで大きくうなずくと、声を張り上げた。
「え~、お買い上げありがとうございます! お会計はこちらへお願いします」
「オレが払うから、マヤはイルザをつれて出てくれ」
「了解。この通りを奥に数軒行ったところに “アルバ” っていう洋品店があるので、そこにいますね。イルザさん、行きましょうか」
マヤとイルザは花屋を出た。
「あの…!」
支払いをスマートに終え、まぶしいばかりの笑みを残して店を出ようとしたレイを、店主は引き留めた。
「コサージュ…、白薔薇を三本で作りました」
「……ん?」
「花言葉で…、愛してると告白するという意味があるんです」