第29章 カモミールの庭で
マヤに褒められて一瞬嬉しそうにしたレイだったが、すぐにグッと眉を引きしめた。
「白薔薇の問題なんて朝飯前と思ったのに、ざまぁねぇな。まんまとやられちまった」
「ふふ。この問題を知ったときからレイさんに出したいと思っていたんです」
「そうか。間違えてしまったが、マヤがオレのことを思い出してたと知って嬉しい」
「当然ですよ。薔薇といえばレイさんとアトラスさんですもの」
「アトラスは思い出さなくていいんだけどな」
自分だけを薔薇と関連付けてほしかったレイは、軽くむくれている。
「何を言ってるんですか。赤薔薇はアトラスさん、白薔薇はレイさんなんだから、どうしたってお二人セットで思い出しますよ」
どんな形ででもマヤに思い出してもらえればそれでいいと考え直して、レイはそれ以上追求するのをやめた。
「お待たせいたしました!」
店の奥より店主が戻ってきた。
「こちらがカモミールのコサージュでございます」
恭しくイルザにコサージュを手渡す。
「まぁ素敵!」
それは手のひらサイズの輪っか状のリースコサージュになっていた。
イルザは左胸につけている自身の手作りの刺繍のブローチの反対側の右の胸元に、コサージュをつけた。
「どうかしら?」
「とてもお似合いです、イルザさん!」
清楚な白い花で作られたリース状のコサージュは、イルザの雰囲気に調和していて美しい。
「気に入ったわ、ありがとう」
満足したイルザに “ありがとうございます” と頭を下げた店主は、今度はレイの方を向く。
「白薔薇のコサージュでございます」
店主はそれをまるで恋人に渡すかのような手つきで差し出した。
「ありがとう」
白薔薇三輪で作られたコサージュは花束のブーケ型。淡い桃色のオーガンジーのリボンで結わえられている。華やかな薔薇の雰囲気そのままの見事な出来栄えだ。
「とても綺麗だ」
レイに自作のコサージュを褒められて、店主は天にも昇る気持ちになり顔を赤くした。
「ありがとうございます…!」
だが次の瞬間には落胆へ。
「マヤ、つけてくれないか」
「私ですか…?」
全くもって今の今まで、レイが自分のためにコサージュの製作を依頼したとは思っていなかったマヤは目を見開いた。
「あぁ、似合うと思うから」