第29章 カモミールの庭で
「……かしこまりました!」
レイに依頼された店主は喜び勇んで、まるでウサギが飛び跳ねるように出ていった。
コサージュが出来上がるのを待つあいだ三人は店内を埋め尽くしている花々をゆっくりと愛でていたが、イルザが。
「少し疲れたわ。あとどのくらい待てばいいのかしら?」
「ずっと立ちっぱなしですものね。これに座ってください」
店の隅に置いてあった小さな丸椅子を引っ張り出した。
「ありがとう」
イルザが座ったので、自然とその横に立つレイとマヤ。
「よくこんな椅子見つけたな」
「たまたまですけどね…。勝手に使って怒られないかな?」
「大丈夫だろう。店で倒れられた方が困るんじゃねぇか?」
「そうですよね」
そう言って微笑み合ったレイとマヤを、椅子に座ったイルザは交互に見上げていた。そして心に浮かんできた言葉を口にすることはなかった。
……こうして見ていると、二人はとてもお似合いね…。
女の子とこんなに楽しそうに話すレイを見たことがないわ。
でもマヤさんには他に心に決めた人がいる。
もちろんマヤさんにはその人とうまくいってほしいけれど…。
従妹のアマンダの息子のレイは、イルザにとっても我が子のように大切な存在だ。幸せに生きてほしい。
……レイの幸せを考えたらマヤさんと恋仲になってほしいけれど、マヤさんの幸せはレイと一緒では叶えられないのよ。
恋はいつも残酷で、思いどおりにはならないものね…。
想いにふけるイルザの耳に退屈そうなレイの声が聞こえてくる。
「暇だよな。花の数でも数えるか」
少しおどけた声で薔薇を指さすジェスチャーをしたレイ。
すぐさまマヤが反応した。
「あっ!」
「……なんだよ、でけぇ声を出して」
「ちょうどいい暇つぶしを思い出したんです」
「暇つぶし?」
レイは怪訝そうだが、イルザは興味を持った。
「あら、面白そうね? どういったものなの?」
「はい。ある問題なんですけど…」
そこでマヤはミケと時々楽しんでいる、新聞の “頭の体操” の薔薇の数の問題をイルザとレイの二人に出した。