第29章 カモミールの庭で
「好きな花でコサージュ…?」
思わずつぶやいたマヤの声に、早速イルザが反応する。
「そうなのよ、素敵じゃない?」
「そうですね」
「店内の花だったら、どれでもいいのかしら?」
「さぁ、どうでしょうか…」
と、イルザとマヤが話しているところへ店主らしき女性がやってきた。
「いらっしゃいませ。コサージュのご用命でしょうか?」
店主は調査兵のマヤではなく、見るからに貴族の装いとオーラをまとっているイルザを見ている。
「これは…、どんな花でも作っていただけるのかしら?」
「そうでございます。店内にある花なら、どれでも」
「そう…」
イルザがきょろきょろと店内を見渡している。
カモミールを探しているのは一目瞭然なので、マヤもレイも手伝った。
花屋の店内はありとあらゆる花であふれていた。
薔薇はもちろん百合もカスミソウもガーベラも。カーネーション、マーガレット、デイジー、桔梗に菊、蘭、フジバカマにワレモコウまで。その他名前も知れぬ野草まであるのに、カモミールは見当たらない。
「おい、訊いた方が早ぇんじゃねぇか?」
「……そうですね」
レイに言われてマヤが店主に訊こうとしたそのとき。
「あの…!」
店主の方から声をかけてきた。
その声が不自然に大きくて、おまけに少し震えていたのでレイもイルザもマヤも一斉に振り返った。
「何をお探しでしょうか…?」
店主はもうイルザを見ていない。マヤのことは初めから見ていなかった。
今、店主が顔を赤くして見つめているのはレイ。レイの美貌に気づいた店主は、もうレイしか目に入っていない。
「カモミールはあるか?」
「カモミールですか…、店頭にはございませんがご用意できます。お待ちください」
レイの顔から1秒たりとも目を離したくない様子でいたが、カモミールを取りに店の奥へ渋々姿を消した。
「レイ、よく私の探している花がわかったわね?」
「あぁ、それはリッ…」
……いけね! リックがカモミールの花を愛する優しい女性だったと言っていたとばらしちまうところだった。
レイがリックと言いかけたことにいち早く気づいたマヤが、すかさず援護した。
「あっ、私がレイさんに話したんです。イルザさんがカモミールを好きだって」