第29章 カモミールの庭で
そうこうしているうちにヘルネに到着した一行は、馬車をおり街の散策を始めた。
「調整日…、休日のことですが、私たちは思い思いに自由に過ごします。兵舎で部屋の掃除や洗濯をしたり、読書したり運動したり…。ひたすら寝るだけの人も。兵舎を出て向かう先はもっぱらここ、ヘルネです」
「そうなのね…。トロスト区の方が都会な感じがするけど、遠いものね」
「そうなんです。やはり歩いて来れる距離は魅力的で…。それに結構たくさんお店があるんです、ヘルネは」
マヤの言葉を聞いて、イルザは歩きながらきょろきょろと見渡して納得したようだ。
「確かに小ぢんまりとした街だけれど、お店はぎっしりと建っているわね」
ちょうど街の中央に位置する広場まで来ていた三人。ヘルネの特徴である広場から四方八方に放射状に伸びている通りを眺めて、イルザが楽しそうに笑った。
「うふふ、カモミールみたいだわ」
「え…?」
「ほら、この広場がカモミールの花の真ん中の黄色いところで、道が白い花びらみたいだわ」
「あぁ…!」
ヘルネの街を上から見たらカモミールの花のようだと言っているとわかって、マヤは笑った。
「ふふ、素敵。もしも鳥になって空から見たら大きなカモミールの花が咲いていますね」
「そうでしょう? この街を気に入ったわ、私。どんなお店があるのかしら? あら、あれはお花屋さんね? 行ってみましょう」
カラフルな花がにぎやかに店頭を飾っている花屋に向かって、イルザは早足で歩いていく。その後ろ姿は楽しくて仕方がないといった様子でウキウキしていた。
ゆっくりとした足取りでイルザについていきながら、レイはマヤにささやいた。
「嬉しそうだな、イルザは」
「そうですね」
「何軒か店をまわって…、適当なところでリックの店へ行こう」
「了解です」
段取りを確認し合ったところで、ひと足先に花屋に到着したイルザが手を振っている。
「レイ、マヤさん! 早くいらっしゃいな」
「はぁい、すみません…!」
レイとマヤが小走りで店に着くと、イルザが花屋の奥の壁に貼られた何かお知らせのような掲示物を真剣に見ている。彼女の肩越しにマヤが覗けば、それにはこう書かれていた。
“お好きな生花で、コサージュをお作りします”