第29章 カモミールの庭で
「……そういうことです。まずは私たちが買い物だったり食事だったりと、何かにつけて足を運ぶヘルネという街に行きます。徒歩で30分ほどの場所にあって通常は皆歩いていきますが、イルザさんは馬車の方がいいですよね…?」
イルザの顔をマヤがうかがえば。
「そうね…、私30分も歩いたためしがないわ。本来ならば調査兵の皆さんと同様に歩いた方がいいのでしょうけれど…。ごめんなさいね、馬車でお願いできるかしら?」
「もちろんです」
こうして再び馬車に乗りこんだイルザとレイ、そしてマヤはヘルネへと向かった。
馬車内でもイルザはご機嫌の様子を隠せないでいる。
「マヤさん、調査兵団の訓練の見学に招待してくださって、本当に感謝しているのよ」
「いえそんな…、私は何も」
「謙遜しないで。エルヴィン団長から聞いているのよ? 今回の招待はマヤさんのアイディアだって。あの日バルネフェルト邸で一緒になった私に、ぜひリヴァイ班の訓練を見てほしいと願い出たそうね。最初はなぜ? と思わないでもなかったけれど、思いきって来てみて本当に良かったわ。王都から出たことのない私には、何もかもが新鮮で素晴らしい体験だわ。ありがとう」
「イルザさんもアマンダさんも、リヴァイ兵長の活躍にすごく興味をお持ちでしたから…。喜んでいただけて良かったです」
アマンダの名前が出てくると、イルザの顔が少し曇った。
「そう、アマンダね…。一緒に来られなくて、とても残念だわ」
すかさずレイが言葉を挟んだ。
「おふくろは恒例の帰省旅行だったからな…。ちょっと今回は予定が重なったから仕方がねぇがマヤ、またいつか招待してくれよな」
“予定を重ねたのはレイさんなのに” と思いながらも、マヤは笑顔で応じた。
「はい、もちろん」
無論レイは、自分がわざとアマンダのいない日にちに招待させたのはわかっているので “すまねぇな” といった顔でイルザにバレないように片目をつぶった。