第29章 カモミールの庭で
マヤの返答に、ペトラは不服そうだ。
「そうかもしれないけどさぁ、楽しいことしかなくない? まずあの白薔薇王子のイケメンレイさんと、本物の貴婦人って感じのイルザさんと三人でヘルネに遊びに行くんでしょ? 思う存分歩き回って、お店を見てまわって、いよいよイルザさんの想い人のリックさんのいる紅茶専門店カサブランカに…! 再会して強く抱き合う二人を、すぐそばで見られるなんて感動ものだよ。私も訓練を休んで一緒に行きたい…!」
「リックさんとイルザさんは人前で抱き合ったりなんかしないと思うよ」
「そうかな?」
「そうだよ。でも抱き合わないかもしれないけど、逢えて良かったって思ってくれたら私も感動する」
「だよね。うまくいくといいね」
「そうだね」
ペトラとマヤは明日の成功を願って、しばらくそれぞれに物思いにふけっていた。
「ねぇ、この紅茶… いい匂いだね。なんか落ち着く」
ペトラがティーカップに鼻を寄せて目を閉じた。
「これはね、カモミールというハーブのお茶よ。リラックス効果が高いから、寝る前に飲むとよく眠れるの」
「へぇ、そうなんだ。明日の作戦に備えてぐっすり寝なくちゃ駄目だし、今夜飲むのにぴったりだね」
「でしょ。それにね、カモミールはイルザさんにとって特別な花みたいだから、明日うまくいきますようにと願いをこめているの」
「そっか。イルザさん、すごく上品で感じのいい人だし、うまくいってほしい。私も願をかけて飲むよ!」
ニカッと白い歯を見せてから、ペトラは少し冷めたカモミールティーを飲み干した。
翌日、前日と同じようにイルザとレイは13時から始まる午後の訓練の第一部の時間の少し前に到着した。
馬車からおりてきたイルザが、不思議そうに首をかしげた。
「あらマヤさん、どうして?」
訓練の見学のときにはリヴァイ班のメンバーが代わる代わる出迎えに来ていたのだ。
「イルザさん、リヴァイ班の訓練はひととおり見学されましたよね?」
「ええ」
「今日は調査兵がオフのときにどう過ごすかを知っていただこうと思います」
「まぁ素敵! 訓練だけではなく、調査兵の日常を見学させてくれるのね!」
イルザは手を叩いて歓声を上げている。