第29章 カモミールの庭で
「いよいよ明日だね!」
時刻は夜9時をまわったところ。
マヤは自室で、自身が淹れたカモミールティーの湯気越しにペトラの大きな瞳がいきいきと輝いているのを目の当たりにしている。
「うん。イルザさん、喜んでくれるかな…」
調査兵団にイルザがレイとともに見学に来てから、この日で三日目。トロスト区に宿を取っての滞在予定は一週間。
王都から帰還する連絡船内で、マヤがリヴァイに “イルザ・ラント前侯爵夫人を調査兵団の訓練見学に招待して、リック・ブレインの店に連れていく” 計画を打ち明けてから事は順調に運んだ。
リヴァイから話を聞かされたエルヴィンは、あらたにラント家からの寄付金およびレイモンド卿からの増額も見込めると判断し、快くGOサインを出した。
招待日は9月20日。予定どおりにイルザは、レイとともに複数人の使用人を連れてトロスト区へ逗留した。
調査兵団へはリヴァイ班の訓練の見学をしに初日の20日から今日までの三日間通いつづけた。リヴァイ班独自の基礎体力訓練 “地獄の基礎鍛錬” を皮切りに馬術訓練や対人格闘、立体機動訓練も見学した。
立体機動訓練では訓練の森にある巨人模型の広場で待ち受けているイルザとレイの頭上を、リヴァイ班のメンバーが立体機動装置で飛び交った。
「想像以上に迫力があって、本当に見学に来て良かったわ!」
イルザは心から訓練の見学を楽しんで、満足している。
イルザがトロスト区へ来て調査兵団兵舎まで通い始めてから三日が経ち、いよいよ明日の四日目はヘルネの街をマヤが案内する予定なのだ。
この予定こそが、今回の計画の本当の目的。
この真の目的を知っているのは、エルヴィン団長以下幹部全員とその副長、発案者のレイとマヤ。そしてイルザが見学するリヴァイ班のメンバーであるエルド、グンタ、ペトラとオルオに限られていた。
「いいなぁ、マヤは明日イルザさんをヘルネに連れていくために調整日もらえて」
「任務だよ…。だから調整日扱いじゃないと思う」