第29章 カモミールの庭で
「そうか。ラント前侯爵夫人がリックの爺さんを想っているとして…、あきらめていると言うのなら逢わせたところでどうなる…? 余計なお世話じゃねぇのか」
リヴァイの眉間に皺が寄る。
「そうですね、確かに余計なお世話かもしれません。でもリックさんとの恋をあきらめてはいるけれど、だからといって誰とも再婚しないイルザさんに幸せな時間をプレゼントしたい。リックさんと再会してどうなるかはイルザさん次第です。もしただの余計なお世話で顔を見るのも迷惑だったのなら、きびすを返して店を出ていけばいいのです」
「………」
めずらしく強い口調のマヤの顔をまじまじと見つめるリヴァイ。
……“きびすを返して店を出ていけばいい” だと?
マヤにしては強気な発言な気もするが…。
もしかするとレイモンド卿の意見なのかもしれねぇな。
チッ。
マヤの語る計画にレイモンド卿の息がかかっていると思うと面白くもねぇが…。
目の前には俺の良い返事を期待して待っている愛おしいマヤの顔。
この顔を曇らせることは、俺にはどうしたってできねぇ。
「わかった。リックの爺さんのためにひと肌脱ぐか…」
「本当ですか…!」
「あぁ、エルヴィンには俺から話しておく」
「ありがとうございます!」
マヤが小躍りする勢いで喜んでいる。
きっとここが連絡船の船室でなければ、誰もいない夕陽の丘で二人きりならば、喜びのあまりリヴァイに抱きついていたかもしれない。
マヤのそんな姿を目の前にして、リヴァイはかすかに笑みをこぼす。
……悪くねぇな。
やるからには完全無欠に成功させねぇとな。やはり俺の班の訓練の見学の招待が妥当か…。
リヴァイはエルヴィンにどう切り出そうかと考え始めたが、
「兵長、早速なんですけどイルザさんを招待する日にちを決めたいのですが…」
「あぁ、そうだな」
マヤとの打ち合わせが先だな、と目の前のマヤと話し合いを始めた。
ボーーーッ!
連絡船の汽笛が鳴って船の速度が上がったようだ。トロスト区に向けて、船は進みつづける。
そのころカフェではエルヴィンが。
……そろそろ部屋に顔を出してもいいかな?
いや、まだ早いか…。
あれこれと考えては一人さびしく紅茶をすすっているのであった。