第29章 カモミールの庭で
「マヤさん、アマンダの戯れは気になさらなくて大丈夫よ。貴女はさっき話してくれた心に決めた好きな人と添い遂げてちょうだいね」
アマンダに質問攻めのときに、好きな人がいるからプロポーズを断ったと話してあるのだ。
「……はい」
イルザの言葉はつづく。
「マヤさんくらいの年だとまだわからないかもしれないけど私くらいになるとね…、一番大切なことは自分の気持ちだと気づくの。あのときこうしておけばよかった、勇気を出せばよかったと後悔しないように…。もしこの先に何か迷うことが起こっても、マヤさんの心の底にある素直な想いを優先して行動してほしいわ」
「……はい」
……イルザさんの心の底にある想いって…。
「あの… もしかしてイルザさんは、後悔していることがあるのですか…?」
……こんな直接的に訊いちゃいけないかもしれないけれど…。
ためらいながらも質問してしまったマヤを、アマンダが後押しした。
「あたくしも気になるわ。今の言い方だとイルザ、まるで何か過去に後悔していることがあったみたいじゃないの」
「………」
イルザはすぐには答えなかった。カモミールの花のブローチを手で押さえて、何か考えこんでいる。
「どうなの? もし何か悩んでいることがあるなら、あたくしに話してくれないなんて水臭いじゃない。なんにでも力になるわよ? さぁ遠慮しないで話してちょうだい」
「……ありがとう、アマンダ。でもね、もし私に後悔があったとしても、そんな昔のことは忘れたわ。時の過ぎゆくままにこの身をゆだねることしかできなかった私には、何もかもが遠い過去の話で、今さらどうしようもないの。だからもういいのよ、私のことは。ただここにいるマヤさんには、心のままに自由に生きてほしいなって思うの。せっかくお友達になれたマヤさんには」
そう言ってマヤを見つめるイルザの瞳は、凜とした強い光を放っていた。