第29章 カモミールの庭で
「“紅茶の魔術師” と呼ばれていたその人はティー・ロワイヤルを考案し、マロウブルーのハーブティーで色彩のマジックを披露し、そしていつも素晴らしく高いところから芸術的な淹れ方をして楽しませてくれるんです」
「おい、それってもしかして… カサブランカの爺さんか…?」
「ええ、そうです。実はレイさんとカサブランカに行ったときに…」
マヤはリヴァイにすべてを話した。
レイと二人で聞いたリックの恋の話。その想い人がイルザだとレイが確信し、マヤもまた同じ確信に至ったこと。
そして遠く離れた場所で、時が経っても想い合っている二人を再会させようとレイと決めたこと。
「……話はよくわかった。いくつか確認したいことがある」
「なんでしょう…?」
「なぜマヤも、ラント前侯爵夫人がリックの爺さんの想い人で、夫人もまた爺さんを想っていると確信した? レイモンド卿と違って彼女とは初めて会ったんだし、そんな昼メシを一緒に食ったくらいの短い時間で何がわかる」
「それは…」
マヤは自分が確信できた瞬間を思い出す。
バルネフェルト公爵夫人の怒涛の質問攻撃がひととおり終わって、イルザが紅茶のお代わりはいかが? と気遣いを見せたときのこと。
「マヤさん、疲れたでしょう? アマンダは加減を知らないから」
「いえ、そんな…。大丈夫です」
「そうよイルザ、大丈夫よマヤさんは! あたくしが加減を知らないだなんて失敬な。あたくしは少~しだけ、レイとのあいだに何があったのかを訊いただけよ! ねぇマヤさん?」
ぷんすか怒っている公爵夫人の顔色をうかがいながら、マヤは苦笑いで答える。
「ええまぁ、大丈夫です…」
「無理しないでいいのよ、アマンダの強引さには私も昔から手を焼いているんだから。さぁ、お茶を召し上がれ。お茶には気持ちを落ち着かせる効果があるのよ?」