第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
そういえばエルヴィンも澄ました仮面の下で笑っていやがった気がする。
結局は二日間の調整日を許可してくれたものの、それまでにすべての停滞している執務の完了を条件にしやがった。それも本来ハンジやラドクリフがまとめるはずの書類まで含まれている。大体あいつらが妙な研究や花の世話ばかりしなければ、執務もとっとと片づくだろうに。
……チッ、今ならなんでも俺が引き受けると思いやがって…。
忌々しいが、それがまごうことなき事実であることをリヴァイは思い出した。
口をへの字にして黙っているリヴァイを不思議に思って、マヤは首をかしげながら言葉を継いだ。
「……それで、どこかに行かれるのですか?」
「ユトピア区とオルブド区のあいだにイカホという山があって、そこにいい温泉宿があるらしい」
「……温泉ですか。私、行ったことないんです。いいなぁ…」
うらやましそうな顔をしているマヤを、リヴァイはまじまじと見つめてから。
「一緒に行くが…」
「一緒? 誰とですか?」
「……マヤ、お前と」
「私… ですか!?」
心底驚いたような顔をしているマヤを目の前にして、信じられない思いでリヴァイはため息をついた。
「……他に誰がいる…」
「えっ、だって全然そんなの知らなかったから」
まだ状況がよくのみこめていないマヤは、嬉しさより当惑が大きくて。
そんな様子のマヤを見ていると、リヴァイは次第に不安に駆られてくる。
「嫌か? ……嫌なら無理にとは言わねぇが」
「嫌だなんてとんでもない! 行きたいです、すごく」
「そうか」
少しずつ当惑より、リヴァイと一緒に温泉宿に行くというスペシャルなサプライズに喜びが大きくふくれ上がってきたマヤは、幸せそうな笑顔でいっぱいになっている。
「すごく嬉しい。でもびっくりしました。本当に想像もしていなかったから」
「いつかはゆっくりと二人で過ごせるところに行きてぇと思っていたからな…」
「そうですね、私もです。執務をお手伝いして、食堂で一緒にごはんを食べて。ヘルネに出かけて紅茶を飲んで。それだけですごく幸せだけど、もっと一緒にどこかに行ってみたいと思う気持ちもあって。兵長を好きになればなるほど、欲張りになっちゃうみたいです、私…」