第29章 カモミールの庭で
「レイさんはラント前侯爵夫妻は政略結婚で愛がなかったはずだし、夫人が誰とも再婚しないのはラント前侯爵ではないある人を想っているからに違いないって。だからそれを私にも確認してほしいと言ってきたんです」
「……確認? どうやって」
「きっとレイさんのお母様のアマンディーヌ公爵夫人が恋バナをするために私を昼食に誘うだろうから、そのときにって」
「なるほど」
「……そしてレイさんの予言どおりに公爵夫人が私を誘ってくれて、イルザさんと三人でお昼をいただきました。初めの方はもっぱら公爵夫人が私に質問ばかりしていました。レイさんがトロスト区に宿を取って調査兵団の訓練の見学を何日もしたことや、私を…」
少し言いにくかったが、マヤは事務的に話そうと努めた。
「……食事に誘ったり、プロポーズしたこと、その返事のことを何度も何度も訊かれました」
エルヴィンに自身のことをアマンダと呼ばせて喜んでいたあの母親が、しつこくマヤにレイモンド卿の恋愛話を聞き出している様子がありありと脳裏に浮かんで、リヴァイは顔をしかめた。
「厄介だったろうな、それは」
「ええ、まぁ…。でもそのときの私には、イルザさんの真意を確かめるという目的があったから苦じゃありませんでした」
「そうか」
「やっと公爵夫人からの質問攻めが終わったときにイルザさんが気を遣ってくれて、お茶のお代わりをすすめてくれたんです。そのときに私の実家が紅茶屋を営んでいることを打ち明けました。するとイルザさんがすごく話に乗ってきました…、昔お気に入りだった紅茶商がいると…」
紅茶と聞いて、リヴァイがほんの少し身を乗り出している。
「その紅茶商は貴族のあいだで “紅茶の魔術師” と呼ばれるほどの凄腕だったそうです。イルザさんの話を聞いていた公爵夫人も当時を思い出して興奮して話してくれました。“そういえばいたわね、紅茶の魔術師! イルザなんか毎日のように呼びつけていたじゃない?” って」
「……紅茶の魔術師…。すげぇ呼ばれ方だな」