第29章 カモミールの庭で
……兵長…。
リヴァイの眉間に刻まれた皺がいつもより切なげに憂いて見えて、マヤは胸が締めつけられる。
今がギリギリなのかどうか、わからない。
でも兵長に、こんな顔をさせたくない。
私にカサブランカを…、リックさんを教えてくれたのは兵長だわ。リックさんと兵長は紅茶を通じて同志として、心がつながっているはず。
マヤはそっと瞳を閉じる、琥珀色の大きな瞳を。
すると真っ白なカサブランカの店内で、リックの静かな笑顔に見守られて座っているのはマヤとレイ、そしてリヴァイの姿も心に思い描くことができた。
……リックさんならきっと、兵長にイルザさんのことを話しても微笑んでくれるはず。
マヤは話す決心をした。
「私の背丈よりも大きなあの壺のかげで、レイさんと話していたのは…」
真正面に座っているリヴァイをまっすぐに見つめる琥珀色の瞳には、もう迷いはなかった。
「ラント前侯爵夫人を、ある人に引き合わせたいからです。調査兵団の資金集めのためではありません」
「……それで?」
ようやく真実を語り始めたマヤの視線を受け止め、リヴァイはじっくりと聞く態勢に入った。
「イルザさん…、ラント前侯爵夫人のことですが、レイさんとのあいだではイルザさんと呼んでいるのでそう呼びますね…。そのイルザさんですが、縁談のお話をすべて断っていると言っていたでしょう?」
「……あぁ、そうだったな」
……別に興味もねぇから真面目に聞いちゃいなかったが、確かそんな話が出ていた。
そう思いながら、リヴァイはマヤに話のつづきをうながす。
「それを私は、亡くなったラント侯爵を想っているからだと思ったのですが、レイさんの考えは違っていました」