第29章 カモミールの庭で
「………!」
ここでリヴァイの目をきちんと見なければ怪しまれる。
マヤは精一杯努力をして視線を上げた。
すると射抜くように自身の一挙手一投足を観察している青灰色の瞳が待ち受けていて。
身がすくみそうになるが、なんとか耐えてみせる。
「ラント前侯爵夫人に訓練を見学してもらうのがいいと思うのですが…。それが資金集めが是が非でも必要な調査兵団にとって、すごく重要だと…」
「そうだな。マヤの気持ちはよくわかった」
あっさりと納得したようなリヴァイの言葉に、拍子抜けするマヤ。
「……わかってもらえました… か?」
「マヤはそうだよな、確かに兵団のことを考えてレイモンド卿と結婚しようとしていたくれぇだし、資金集めのためにラント前侯爵夫人を招待しようというのは認めよう。だがな…」
一旦は納得してくれたかのように見えたリヴァイの瞳がギラリと不穏に光った。
「レイモンド卿を呼ぶ必要がどこにある? 本当に資金集めのためなら夫人だけでいいだろうが」
「それは…、ラント前侯爵夫人に王都から一人で来てもらうのは大変だろうから、すでに見学経験のあるレイさんが一緒だったら夫人もなんの心配もいらないんじゃないかと思って…」
「……と、レイモンド卿が言ったのか?」
「……え?」
リヴァイの鋭い声色に、マヤは不安になってくる。
「屋敷を去る直前に、レイモンド卿と何か話していただろう? 馬鹿でかい壺の後ろで」
「あ…」
……兵長、知ってるんだ…。
屋敷をおいとまする直前にレイモンド卿と打ち合わせをした。ラント前侯爵夫人の想い人がリックだとマヤも確信できたことを伝え、ならば調査兵団に招待する作戦を実行しようと二人で。玄関ホールに飾られている壺のかげで。
そのときエルヴィンとリヴァイはバルネフェルト公爵夫妻との挨拶に集中しているように見えたし、身を隠した壺があまりにも大きくて。また執事長のセバスチャンの計らいで、多数のメイドが不必要にリヴァイとマヤのあいだを埋め尽くしていたので、リヴァイからは何も見えないはずだった。
「レイモンド卿と話すなとは言わねぇ。だが…、明らかに二人で何か…、特別な話をしているのを見過ごせるほど俺は人間ができてねぇ」