第29章 カモミールの庭で
「……別に」
ぷいとそっぽを向くリヴァイの視線は冷えている。
「それはそうか。まさかマヤの部屋に押し入るつもりでもなかっただろうし、私がここにいてもいなくても関係ないな。さぁ、部屋で飲み直そう。ナイルが待ちくたびれている」
「……あ?」
「結局あれからここに直行して、二人で飲んでいる。気心が知れてるから部屋飲みの方が楽なんだ。それに…、ナイルがリヴァイが帰ったら一緒に飲めると楽しみにしている」
「……俺は別にやつと気心は知れていねぇが」
「まぁそう言うな。どうせ部屋は一緒なんだ、入るしかないだろう?」
「……チッ」
宿の部屋はエルヴィンとリヴァイで一部屋、マヤが一人で一部屋を取っている。
リヴァイの機嫌は一気に悪くなった。
エルヴィンの言うようにマヤの部屋に押し入って送り狼になるつもりなど毛頭なかったが、それでも別れ際に可愛い顔をじっくりと見るくらい許されるはずなのに。
……何が嬉しくて狭い部屋で、薄ら髭と顔を突き合わせねぇといけないんだ。
「何をぐずぐずしている」
部屋に向かって歩くエルヴィンが振り返る。どことなく今の状況を面白がっているような目をしているのが腹立たしい。
だが帰る部屋は一つだし、ここで駄々をこねても始まらない。
リヴァイは覚悟を決めると、エルヴィンが大きく扉をひらいて待っている部屋へ向けて一歩を踏み出した。
翌日。エルヴィン、リヴァイ、そしてマヤを乗せた馬車は広大なバルネフェルト公爵邸の前に到着した。
執事長のセバスチャンがいつもどおりの物腰のやわらかさで、気持ち良く出迎えてくれる。
「お待ちしておりました」
セバスチャンの背後で多数の執事とメイドが一斉にお辞儀をしている。
……相変わらずすごいお屋敷だわ…。
こちらへどうぞと応接室へ案内されているあいだ、マヤは使用人の数や屋敷の豪華さにあらためて驚く。
「調査兵団の皆さまがいらっしゃいました」
セバスチャンの声と同時に扉がひらかれた応接室には、二人の見知らぬ貴婦人が優雅に紅茶を飲んでいた。