第29章 カモミールの庭で
マヤは添えられていた銀のスプーンで果実をすくってみる。あらかじめナイフで切って皮から離されてあったため、簡単にひとくち大の実をすくうことができた。すでに果汁で少し溶けて白から透明になりつつある砂糖も、たっぷりとすくえている。
リヴァイとバーテンダーの二人の男性が注視しているなか、マヤはそろそろとスプーンですくったグレープフルーツを口に運んだ。
……酸っぱくない…!
いや、酸味が消えた訳ではないけれど、口の中がきゅーっとなってしまうような強い酸味が砂糖の甘さで中和されて、心地の良い美味しさに変化している。
そして噛みしめれば果汁がほとばしり鼻に抜けていく香りは、甘味が加わったことによって強い酸味の刺激が減り、柑橘の旨味がダイレクトに味わえるようになった。
「こんなグレープフルーツ、初めて…」
「……美味ぇか?」
「はい…! とても美味しいです」
リヴァイに見せる笑顔は未知の味覚に驚いた、新鮮な喜びにあふれている。
「残りは絞りましょう」
喜んでいるマヤの反応に目を細めて、バーテンダーはグレープフルーツの残りの半玉をギュッと絞る。そのフレッシュな生絞りの果汁と蜂蜜をステアしてグラスに注いだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
目の前でつくられたグレープフルーツジュースを喉に流しこむ。
「これも蜂蜜の甘さがちょうど良くって最高です」
そうでしょう、そうでしょうといった満足そうな微笑みを浮かべて一礼をするとバーテンダーは去っていった。
「グレープフルーツがこんなに美味しくなるなんて知らなかったです」
グレープフルーツの砂糖がけと生絞り蜂蜜ジュースに夢中になっているマヤは、もっと酒を飲みたいという願望を完全に忘れ去ったようだ。
隣の席でにこにこと食後のひとときを楽しんでいるマヤを眺めながら、リヴァイはグラスの氷をカランと鳴らした。