第29章 カモミールの庭で
リヴァイとマヤの様子を見ていたバーテンダーが、一旦カウンターから離れた。
しばらくして戻ってきたときには、つやつやと輝く大玉のグレープフルーツを手に持っている。
「さて…」
にこやかにマヤに笑いかけた。
「最高のデザートをご用意いたしましょう」
「……私にですか…?」
「はい。スプモーニをお気に召したお客様なら必ずや…」
バーテンダーは切れ味の良いフルーツナイフでスパン!とグレープフルーツを真っ二つに切る。
手際よく皮と実のあいだにナイフの切っ先を入れてくるりと一周させる。そして表面がでこぼこしているがゆえに光を乱反射してキラキラ光っている透明のガラスの皿に、グレープフルーツの半分を乗せた。
……デザートは、グレープフルーツそのもの…?
確かにグレープフルーツは美味しい果物ではあるが、酸味も強く少々苦味もあり “最高のデザート” というのに適しているかどうかマヤは首をかしげた。
バーテンダーはマヤの心の中が読めているかのようにニヤリと笑うと、振り向きざまに棚から砂糖壺を掴んだ。そして壺に突っこんであった大きな匙で砂糖をすくうとグレープフルーツの上にたっぷりかけた。
……え? 今から何が始まるの?
マヤが驚いて目を丸くしていると、バーテンダーは澄ました顔でカタンと小さく音を立ててマヤの前にグレープフルーツの乗った皿を置く。
「グレープフルーツです」
「……え?」
今度は声に出た。
最高のデザートだというものだから、砂糖をかけた今これから、焼くなり煮るなり何かするのかと思いきや… 何もしない。
「これが…、最高のデザート?」
マヤの目の前にはランプの光を乱反射してキラキラと輝く透明の皿の上に、半分に切られたグレープフルーツが乗っている。ただ乗っているのではなく、白い砂糖をこんもりと山のようにかけられて。
「そうです。スプモーニを好む女性のお客様に大好評のデザートです。どうぞ召し上がれ」
マヤは不安そうにちらりとリヴァイを見れば、思っていた以上に優しい顔で見守ってくれている。