第29章 カモミールの庭で
「あっ、グレープフルーツ! そうだわ、ちょっと苦くて美味しい」
初めて飲むカクテルに夢中になっているマヤを眺めながら、リヴァイはシェーブルチーズをつまんでハイボールをあおる。
……美味ぇ。
シェーブルチーズはこれまでに何度も食べてきた。こんないかにも女子向けの色あざやかなおしゃれなサラダではなく、強い酒の肴にもなるものを。こんなフレッシュなチーズではなく、もっと熟成させたクセの強いものを。
だが今は、酒も軽いしこのくらいの熟成具合がちょうどいい。
シェーブルチーズとハイボール、そして隣にはマヤ。
……他に何もいらねぇ。
マヤはサラダとカクテルに、リヴァイはこの状況に満足してそれぞれ酒が進む。
「カチャトーラでございます」
鶏肉と季節の野菜のトマト煮込みが運ばれてくるころには、二人ともグラスを空けていた。
すかさずバーテンダーが用意した酒は白ワインとバーボンのロック。
そのチョイスにリヴァイが意外だなと思っていると。
「……トマトの煮込みにはロゼがセオリーなところがありますが、初々しいお客様にはフルーティーな白がふさわしいかと」
「……そうか」
「そしてお客様はそろそろ、グラスを傾けるたびに氷が奏でるあの音が恋しいのではないかと」
「ハッ、違いねぇ」
リヴァイは洞察力の優れたバーテンダーに敬意を表して、カランと鳴らした。
「綺麗な音…」
マヤがリヴァイのグラスから流れた音にうっとりとして、ため息をつく。
「ロックは耳でも酔えるからな…。さぁ冷めないうちに食え」
マヤが美味しそうに食べている姿を好ましく思っているリヴァイがうながした。
「はい、いただきます」
律儀にあらためて両手を合わせてから、スプーンでひとくち。
「美味しい…!」
ふっくらとした鶏もも肉の切り身が完熟トマトで煮こまれていて、噛むほどに美味しさがつのる。
「あっ、季節の野菜はかぼちゃです」
もぐもぐとカチャトーラを存分に味わい、白ワインを堪能する。
「本当に美味しい…ってさっきから私、美味しいしか言ってませんね…」
「それだけ美味いってことだ。別にいいじゃねぇか」
「ふふ、そうですね。美味しいものは仕方がないもの」
そう微笑んだマヤだったが、ふとリヴァイのことが心配になってくる。