第29章 カモミールの庭で
「お待たせいたしました。トマトとシェーブルチーズのサラダでございます」
ギャルソンエプロンの男がリヴァイとマヤのあいだに置いた楕円形の白い皿には、輪切りにした真っ赤なトマトと真っ白なシェーブルチーズが交互に重ねて並べられている。ところどころに鮮やかな緑のバジルの葉が散りばめられていて、赤、白、緑の彩りが目を引く一品だ。
「ついに念願のシェーブルチーズ…!」
マヤは感激して胸の前で両手を組んでいる。
カチャトーラを注文すると決めたあとに、メニューブックに見つけた “シェーブルチーズ” の文字。
ヘルネの紅茶専門店 “カサブランカ” のリック・ブレインが、スコーンを焼くのに牛ではなくヤギの乳を使っていると知った。そしてリヴァイに教えてもらったヤギの乳でつくられたシェーブルチーズ。
いつか食べたい、リヴァイと食べたい…、ずっとそう願っていたマヤには何よりのごちそうだ。
「いただきます…!」
念願のシェーブルチーズのサラダとあって、心なしかフォークを握る手が震えている気がする。
「……美味しい!」
みずみずしいヤギの乳でつくられたシェーブルチーズは、独特の発酵の風味が癖になる味わいだ。それをトマトと一緒に頬張ると、トマトの酸味とチーズのコクが一体感を増して口の中に幸福感を運んできた。バジルの香りがアクセントを添えて、やみつきになることは間違いない。
「良かったな」
右手にフォークを持ち、左手はもぐもぐとサラダを味わう自身の頬に添えて目を細めて喜んでいるマヤの隣で、リヴァイも嬉しそうにしている。
「念願のシェーブルチーズが食えて」
「はい…! 兵長の言っていたチーズのクセが、すごくトマトと合っていて美味しいです」
「そうか」
あまりの美味しさにマヤの手が止まらないところへ、カウンターにすっと置かれたタンブラーグラス。その中身は赤みがかったオレンジ色のカクテル。
「スプモーニです」
バーテンダーが自分のために作ってくれた、料理に合う口当たりの良い酒。
マヤは期待する気持ちで胸をいっぱいにして、口をつける。
「うわぁ、美味しい…! なんだろ…? この味…、知ってる」
「グレープフルーツです」
バーテンダーは澄まして答えながらリヴァイの前にハイボールを置いた。