第29章 カモミールの庭で
「訓練兵団からの履歴書をそのまま使うんじゃなくって、調査兵団で統一したフォーマットで名簿を作れたらと。実家以外の緊急連絡先とか、特記事項があるなら記述して。それに今はきちんと分類されずに、亡くなったら年度ごとに箱の中に履歴書を放りこんでいるだけですけど…」
マヤの声が曇る。
あれはもうすぐ二年目に入ろうとするころ。図書室の隣にある資料室に入ったとき。部屋の奥深くの棚に、無造作に置かれていた書類収納箱の数々。ふとした好奇心で一番手近にあった箱の中身を見てしまった。
別に部屋に施錠されていた訳でもないし、箱にも見てはいけないと警告が書かれていた訳でもない。ただ大きく数字が書かれていただけ。
……なんだろう?
封印されていない箱の中身は、これまた無造作に突っこまれていた何かの書類。
一番上の一枚を手に取る。
「あっ…」
思わず声が出た。
それはつい先日の壁外調査で殉職したある先輩兵士の履歴書だった。もう一枚を手に取ってみる。やはり殉職した兵士のものだ。次のものもその次のものも、手に取ったものはすべて殉職した兵士の名前が。
ハッと気づく。
箱に書かれている “847” は…。
「847年…?」
憑りつかれたように書類を漁って、ついに見つけた二枚の履歴書。
「クレア…、アンネ…」
壁外調査で相次いで亡くなった同期二人の履歴書を持つ手が震える。
「間違いないわ。これは847年に亡くなった調査兵の書類箱…」
当時のショックをまざまざと思い出しながら、マヤはリヴァイへ伝える。
「亡くなったあとに履歴書が書類箱に放置されるのではなく、きちんとファイリングして、いつでも必要なときにはすぐに見返すことができるようにしたいです」
「ちょっと待て。書類箱に放置とは…?」
「資料室に書類箱が大量にあって、殉職した人の履歴書が各年度ごとに突っこんでありました。……知らないんですか?」
「あぁ、初耳だ」
すこぶる怪訝そうに、リヴァイの眉間に皺が寄る。