第29章 カモミールの庭で
自分でもその答えははっきりしないまま、梅の実をもぐもぐと味わっているマヤの口元ばかりを見ている。
くちびるが艶めかしく動くたびに、気持ちも肉体もドキドキと跳ね返る。
ゆっくりと噛んで味わうマヤであるからして、人よりは梅の実を楽しむ時間が長いのだが、それでもやがて飲みこむときはくる。
“最高でした” とマヤが満足そうに梅の実をこっくんと飲みこむと同時に、リヴァイの至高の時間は終わりを告げた。
……もっと見ていたかった…。
ぼうっとリヴァイの視界が霞む。
……情けねぇ。
煩悩に一瞬でも惑わされたおのれに嫌気がさして、リヴァイはシェリーグラスに視線を落とした。白く骨ばった手の中でマホガニー色の酒が揺れている。それはあたかも自身の心の表れのようで。
「……ちょっと思いついたことがあって…。兵長?」
「……なんだ」
マヤが何か話しかけていたのに、耳に入ってくるのが遅れてしまった。
「同期のリーゼなんですけど…」
「あぁ、ここをすすめてくれた…?」
マヤはこくりとうなずいて。
「そのリーゼが団長の書いた手紙をザックのお母さんに届けてくれていたんです。なんでもナイル師団長にじきじきに指名されて」
「ほぅ…?」
あの薄ら髭の直の命令だと知れば、興味も湧く。
「実はリーゼがイエローブの住民名簿を作ったんです」
「……住民名簿?」
「はい。田舎の小さな村だったら、村全体を知ってる人がいて仕切ってます。村じゃなくても、クロルバ区でもそうなんですけど…」
マヤが思い浮かべた顔と同じ顔を、リヴァイも思い出したようで。
「マリウスの親父さんだな」