第29章 カモミールの庭で
それから三日後の8月27日。ついにザックの母親からの手紙が届いた。
団長室には幹部が全員揃っている。
あらかた壁外調査の事後処理もかたがつき、今や幹部の関心は目下エルヴィンが黙読中の手紙だ。
どうやら読み終わったらしいエルヴィンが、ふわりと便箋を机の上に置く。
途端にハンジの声が飛んだ。
「どこだった?」
「イエローブのおばあちゃんの家とあるから恐らく王都。王都にイエローブという商人街があったはずだ」
「王都か!」
窓際に立って腕を組んで外を見ているリヴァイに、ハンジは即座に声をかける。
「リヴァイ、王都だってさ!」
「……聞こえている」
ハンジの方を見向きもしないリヴァイの気配を背後に感じながら、エルヴィンは話し始めた。
「グレゴリーさんには私の方から手紙を出しておこう。マヤには、9月3日に行ってもらう」
「9月3日? 一週間も先だけど?」
ハンジが首をかしげたが、ミケはぴんと来たようだ。
「……会議か」
ミケの一言にエルヴィンはうなずいた。
「9月にはちょうど兵団合同会議があるからな…。そのときにマヤを連れていくつもりだ」
定例になっている兵団合同会議は、隔月王都でおこなわれる。通常はエルヴィンとリヴァイの二人で出席している。日帰りではなく泊まりになる。
「実はバルネフェルト公爵から声がかかっているんだ。次に王都に来たときに必ず寄ってくれと」
「うん? レイモンド卿ではなく父親の公爵の方?」
ハンジの疑問ももっともだ。バルネフェルトと聞けば、レイモンド卿を思い出しマヤと結びつけてしまう。
「あぁ、そうだ。公爵が私から説明を聞きたがっている。レイモンド卿とマヤの関係について」
見なくてもエルヴィンにはわかった。窓際のリヴァイの筋肉がぴくりと波打ったことを。
「へぇ~、なるほどね! それでリヴァイとマヤを連れていこうって算段か」
ハンジは一人腑に落ちて、にやにやしている。
「ハンジ、どういうことだ? 俺にはちんぷんかんぷんなんだが…」
ラドクリフが人の良さそうな丸っこい顔で訊いてくる。
「エルヴィンはさ、自分でバルネフェルト公爵に説明するのが面倒だから、当事者であるリヴァイとマヤの二人に丸投げするつもりなんだよ」