第29章 カモミールの庭で
「調整日は無論おのおの自由に取ればいい。しかし幹部となれば…、それこそ名称どおりに “調整” して組織を優先するものだ」
「………」
「壁外調査の事後処理で忙しいときに兵士長の君が、わざわざラドクリフが行くはずだった遺族訪問を横取りしてまでクロルバに泊まりたがるとは、私も考えなかったものでね。野暮なことは言いたくないのだが…」
「……なら、その口を閉じてろ」
不機嫌そうな弧を描いていた眉が、さらに美しくリヴァイの顔に影をつくる。
「そうはいかない。何も言わずに調整日を許可したんだ。せめてその多大な犠牲を払った調整日が、許可に値する成果を生んだのかどうか知る権利が、団長の私にはあると思うのだが」
「多大な犠牲とは大げさな…」
リヴァイはクロルバ区へ…、マヤの実家へ行ったことに関しては一切報告する気などはなかったのだが、少し考えてみる。
……ここで粘って最終的に何も言わずに部屋を出れたとしても。
次に調整日を取るときに許可しないんじゃねぇか、こいつは…?
そう思ってエルヴィンの顔をちらりと見れば、あたかもリヴァイの考えていることなどお見通しといった表情でにやりと笑った。
「常々善人でありたいと思っているのだが、実際のところそうでもないんだ… 私は。だから今回のような寛大な処置は次はないだろう。なにしろ壁外調査の事後処理ほど鬱々とした厄介な仕事はないからね。そんなときに幹部の一人が、それも兵士長が欠けるというのは…」
「もういい」
遮らなければ、地獄の果てまで延々と続いていたであろうエルヴィンのまわりくどい嫌味。
「……クロルバに行った」
「それで?」
「マヤの実家に行って、メシを食った」
「泊まったのか?」
「あぁ。街の宿屋に」
……なんでガキみてぇに、いちいち報告しないといけねぇんだ。
エルヴィンのやつ、きっと面白がって…。
リヴァイはエルヴィンが退屈しのぎにでもしているのではないかと勘繰って執務机の向こうをうかがえば、思いのほか優しいまなざしが待ち構えていた。
「お前とマヤにとって有意義な休暇だったみたいだな」
その声の温度は、本当に心から “良かったじゃないか” と思っているのが伝わってくるもので。
凍りそうになっていたリヴァイの気持ちを、じんわりと溶かしていく。