第29章 カモミールの庭で
「俺もそうかもしれねぇ」
マヤの両親のもてなし。父親のジョージは酒に酔って、くどくどと愛娘を手放さなければならない淋しさをぶつけてきたかと思えば、相手が俺で良かったと涙ぐむ。母親のルチアの料理の腕は一級品だ。食べた瞬間に食卓に笑顔がこぼれて、そこに居合わせた俺も家族の一員の輪に自然と入っていけた。
隣を見れば、愛するマヤが微笑んでいる。
完全に美しい時間だった。
満ち足りた想いを胸に見上げた夜空には、青白い月が輝いていた。
翌日、無事に帰舎したリヴァイとマヤは団長室にいた。
「……ではメトラッハ村から届くザックの母親の手紙次第だと」
「あぁ」
「わかった…。事態が事態だし団長の権限で手紙は開封して、母親に連絡を取るとしよう」
エルヴィンは太い眉をきりりと寄せていたが、急に柔和な顔をしてマヤに。
「ご苦労だったね。まだ今日は調整日なんだ。ゆっくり休むがいい」
「了解です」
マヤは起立したまま返事をしたのだが。
………?
にこにこと笑っているエルヴィンが何も言わないで、じっと自身を見つめてきているのを不思議に思った。
……もしかして出ていけということ?
ハッと気づいて、慌てて挨拶をし直す。
「失礼します!」
くるりと180度体の向きを変え、速やかに退室した。
「さて…」
マヤが扉を閉めた途端に、エルヴィンが口をひらく。
「有意義な休暇だったか?」
「………」
機嫌の悪そうなリヴァイの眉の形を、愉快そうに見守ってエルヴィンはもう一度訊く。
「休暇は有意義だったのかと訊いたのだが…?」
「遺族訪問の報告ならしただろうが。休暇の報告までする義務はねぇ」
「それはどうかな?」
やわらかな笑顔だったエルヴィンの表情が、突然険しくなった。