第29章 カモミールの庭で
「えっ? お父さん、もう飲んでるの?」
「そうなのよ。手塩にかけた娘が~! とかうるさいのよ、困ったものね」
リヴァイとマヤが顔を見合わせて、食卓のあるダイニングルームに入っていくと。
「おっ! 帰ってきたか。マヤ、ちょっと遅いんじゃないか? まぁいい、今日は特別に許してやろう」
ジョージは顔だけではなく首まで赤くなっていて、酔いがまわっているのがよくわかる。
「兵士長、ここに座ってくれ。マヤはな、ルチアに似てクロルバで一番の花と言っていいくらいの別嬪さ。気立てだっていいし、俺の教育がいいんだろうな、紅茶のことならそこらへんのやつらよりよっぽど詳しい。そんな自慢の娘なんだ。それをだな、兵士長は…」
完全にできあがっているジョージに苦笑しているルチアが、再度リヴァイに頭を下げた。
「ごめんなさいね、これが世間でよく言う一人娘を嫁がせる父親の心境なのね…」
「お母さん! 嫁がせるだなんて…!」
そんな話はまだ早いとマヤは顔を真っ赤にしている。
「兵士長~!」
ジョージが手招きしている。
「兵長、すみません! 父はそんなにお酒が強くなくて…」
「わかった。任せろ」
リヴァイはジョージの向かいの席に腰を下ろしながら温かい感情が、この家族の輪に入っていいんだという想いが、こみ上げてくるのを感じた。
「さぁ、飲んだ飲んだ!」
やっとリヴァイが向かいに座って、ジョージは機嫌良くエールの瓶を持ち上げた。
神妙な顔をしてジョージの酒をグラスで受けているリヴァイの姿を見て、ルチアは台所にならんで立つマヤにささやく。
「……うちの食卓に馴染んでるわね」
「うん」
「サラダを作ってあるから、買ってきたハムと一緒にテーブルにならべてくれる?」
こうしてウィンディッシュ家の、少しだけいつもより豪華な晩餐が始まった。
リヴァイがウィンディッシュ家をオリオンとともに出て、宿屋に向かったのは日付が変わるころだった。
リヴァイが意外だったのは、オリオンがあっさりとアルテミスと離れるのを承諾したこと。
だが愛馬の瞳を見て、すぐに理解した。
……そうか。完全に満足したからだな。