第29章 カモミールの庭で
やがてその涙は一粒の真珠になって、マヤの頬を伝い落ちていく。
それに気づいたリヴァイが、右手でぬぐった。
「大丈夫か…?」
「兵長…、私…」
リヴァイの甘噛みがおさまって、やっと息ができる。
マヤは、はぁはぁと荒く呼吸をしながら痺れっぱなしの頭で、必死で言葉を探している。
「こんなの… 初めてで…。どうしたらいいかわからないから… 怖くて…」
震えているマヤが愛おしい。
怖い思いをさせてまで激しく吸いついたことには申し訳なく思うが、それでも目の前ではぁはぁとまるで喘ぐように息をしている濡れたくちびるを見ていると、もう一度襲いたくなる。
下半身から脳天に突き上げてくるような強い欲望を抑えて。
「……すまねぇ」
きつくマヤの腰を抱き寄せていた左腕の力をゆるめて、右手でそっと頬を撫でてやる。
……飛ばしすぎた。もうひでぇことはしねぇから…。
そんな想いをこめて、優しく優しく撫でてやる。
なのに。
「どうにかなっちゃいそうで… 怖いのに…」
涙をぽろぽろとこぼしているマヤを大切に想うからこそ、とことん優しく言葉を拾って。
「怖いのに…?」
「怖いのに…、どうにかなっちゃいそうに気持ちいいんです…」
………!
リヴァイの手が止まる。
……おいおいおいおい、待てよ。
こっちはなんとか自制してるってのにそんな顔して、そんなこと言うんじゃねぇ…!
「……兵長?」
マヤはマヤで不思議に思った。
優しく涙をぬぐって、頬を撫でてくれていたリヴァイが、急に手を止めて眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
……やっぱり “怖い” なんて言っちゃいけなかったのかな?
「あの…、ごめんなさい…」
涙をいっぱいにためた目で、リヴァイを見上げる。
「怖いなんて…。違うの、そうじゃなくって私…」
「もういいから黙れ」
リヴァイは混乱しているマヤを、ぎゅっと抱きしめる。
「ただこうやってマヤを感じたかっただけだ。ただそれだけだから…」