第29章 カモミールの庭で
ディーン商会の裏通りを抜けて、あてもなく歩いていく。
クロルバの街は一つの壁につき四つしかない突出区のなかでも、田舎の雰囲気を多く残していた。
理由は不明だが巨人は南からやってくると考えられている。したがって突出区のなかでも南の区…、破壊されたウォール・マリアでいえばシガンシナ区であり、ウォール・ローゼでいえばトロスト区がもっとも重要な城塞都市として兵力が集結し、それにともない住民も増え、商店が栄え、街は活気にあふれている。
西地区にあるクロルバは、南のトロストからの距離で考慮すれば条件的には東にあるカラネスと同等であるのに、なぜか区内でも自然が多く、商店よりも住宅の方が数が多くなっている。
その田舎らしいのどかな景色だからか、ゆっくりと歩いていると、普段せかせかと時間に追われて暮らしていることが馬鹿馬鹿しくなってくる。
「マヤ、おかえり!」
「帰ってたのかい?」
「マヤ、元気でやってるかい?」
次々と声をかけられて、あたかも街がひとつの家族のようだ。
当然、酒場からデイブによって始まったマヤとリヴァイの噂も、結構なスピードで広まっていた。
なので声をかけてくる人のなかには、
「あんたがマヤの旦那かい?」
と、有名なリヴァイ兵士長だとは全く気づいていない目の悪い老婆もいた。
「とっても優しい子なんだからね、泣かせたらこのあたしが許さないよ!」
もちろんリヴァイだと死ぬほど認識している駐屯兵もいて。
「リ、リヴァイ兵長! お疲れ様です! マヤもご機嫌麗しゅう…」
今まで気安く話していたマヤが、あの人類最強のリヴァイ兵長の恋人だと知って大混乱してしまっている。
声をかけてくる人が少なくなったと思ったら、いつしか街の外れの丘のそばまで来ていた。
「兵長、故郷の丘です。のぼりましょう!」