第12章 Bout
「悪ぃ、中断させたな。再開するか」
「あ──うん。私が捕まった想定でいい?」
「そうだな。暴走しなければクリアだ」
さっきとは違い耐久戦になる。
これまでの単純な接触の特訓と違って、今回は悪意が加わったものだ。
「もし限界を感じたら言ってくれ。手を挙げるのでもいい。」
「わかった、よろしくお願いします!」
轟くんに近寄ると手首を引かれ、背後から腕で首を拘束される。
手加減してくれているとはいえ、轟くんの腕はがっしりしていて、本気を出されたら息ができなくなりそうだ。
今の時点ではまだ大丈夫。
「──綿世、このあとどうすればいい」
「えっ、えーと、どうだろう⋯⋯あ、轟くんも私のことを敵だと思えばいいと思う」
「なるほど」
演技があったほうがやりやすいかもしれない。
まずは轟くんの腕をはがそうと抵抗を試みる。すると、すぐに力が強まった。
右手が顔に近づけられると、顔に当たる冷気に思わず鳥肌が立つ。
「氷漬けになりたくなきゃ動くなよ」
「⋯⋯わかった、言うことを聞くから、早く解放して」
そう言いつつも抵抗はやめない。肘のほうに顔を向けつつ、彼の腕にぶら下がるように体重をかける。轟くんは右手で私の手首を掴んだ。
実戦ならここで凍らせるのだろうが、すごく冷たいだけで済んでいる。しかしそれでもあまりいい心地ではない。
足をばたつかせ、体をひねって抜け出すと、地に押さえつけられた。
轟くんはゆっくり押し倒す感じで、私も自ら倒れこんだ。授業と違うし先生もいないからふたりして気を使い合っている。
シミュレーションの色が強いからそんなに怖くない──そう思ったのもつかの間。
両手を後ろで拘束されると、強烈な悪寒が走った。
こわい。
「動くなと言っただろ」
「んっ⋯⋯」
冷たい手が背中にあてがわれている。
視界が揺れる。
全身の神経が空気の動きすら捉えるかのように過敏になる。
目の前が明滅して、世界がおかしくなる。
こわい。
世界が壊れる前にぎゅっと目を閉じた。
瞼の裏に、地に転がった通学リュックが映る。
それは中学のときに持っていた、私のものだった。