第12章 Bout
「お母さんのお見舞いの帰りとか⋯⋯なにかのついででいいから。私、連絡くれたらすぐ飛んでくから。少しだけ、勇気をおすそ分けして、ほしい」
ほんのかすかに指先に触れる。すると、轟くんの指が絡んで私の手をつかまえた。
「わかった。いっしょに行こう」
ぎゅっときつく握られた手は熱かった。
私もゆるく握り返して、ただ、うなずいた。
そのうち先生が廊下の向こうから歩いてくるのが見えて、あわてて手を解く。しかし、強引に手を引きはがしたせいなのか轟くんがあんまり気落ちするから、結局は帰りの道中で手をつなぎ直した。
常々思うけれど、轟くんはもう少し周りの目を気にしたほうがいい。
あのお父さんの息子うんぬんを抜きにしたって、目立つんだからね!──そんなことを言ったところで、わかってはもらえないのはもう十分身にしみていた。
「ねえ、轟くん⋯⋯」
「なんだ」
「ちょっとだいぶかなり、はずかしい」
「心臓、すごいな」
ふっ、と耳元で微笑む声がして私はひたすら顔をしぼませる。
例のごとく家の前だ。まるで恒例の挨拶のごとく抱きしめられている。私が特訓で触れ合いに慣れてきたのをいいことにここぞとばかりに甘えてくるのだ。⋯⋯甘えて、であってるよね?からかわれてないよね?
お母さんが帰ってきたらどうしよう、なんて考えながらも心臓は暴れ続けているし、なんならうれしいと感じている私もいるし、さまよわせた手はしかたなく轟くんのシャツの腰あたりを握りしめているし。
好きな人にこんなことをされて正気でいられる人なんていないんじゃないか。私はよくがんばっていると思う。
「そ、そろそろ帰らないと、ね?」
「ん⋯⋯わかった」
「⋯⋯わかってないのでは?」
「すぐ終わらせる」
そう言って強く抱きしめられる。腕に閉じこめられた挙句、胸板に圧迫され、さすがに背中をたたいてギブアップした。
そろそろ解放されるかと思った、そのときだった。
「焦凍⋯⋯!?」
聞き覚えのある男性の声。
叶うのなら砂になって消えたい──。
そんな私の願いは叶うはずもなく、親子喧嘩が勃発し、新たな問題が発生してしまうのだった。