第12章 Bout
「じゃ、俺がヴィランだと想定して動いてくれ」
「個性は?縛りいる?」
「まずは個性使用可、縛りなしでやってみるか」
「わかった」
どちらからともなく二、三歩距離を取る。
「俺は多少加減する。遠距離戦になっちまうからな」
「了解!いつでもいいよ」
私がうなずくと轟くんは半歩下がってから右手に冷気を纏わせ、こちらへ向かってきた。
体に向かう手を腕から出した綿で防ぐ。綿は瞬時に凍りつき、彼の手によってぱりぱりと音を立てて崩れ散った。
腕を掴まれる前に反対の手で糸状の繊維を放つ。数多に放たれた繊維は彼の腕を胴へと拘束した。
相手が自分より非力な私だからだろう。
轟くんは左手で繊維をねじりつかむと、体重をかけて勢いよく引いた。
「っうわ!」
まずい、転ぶ⋯⋯!
急に引き寄せられたことで前につんのめり体勢を崩してしまう。
とっさに彼の右腕を掴み、体を反転して背負い投げた。それと同時に繊維を切り離し、一旦体勢を立て直す。
轟くんは器用に受け身を取ると、再度こちらの懐へ飛びこんできた。
冷気を肌に感じる寸前で身を屈め、脛目がけて足蹴りを繰り出す。てっきり受け身に出るかと思ったのに、がっつり手応えを感じた。
だが、すぐさま首根っこを引かれ腕を取られた。
──そんな強引なカウンターある?
演技こそしていないけれど、轟くんなりにヴィランになりきっているのだろうか。いくら加減しているとはいえ、普段より荒い戦い方な気がする。
「いいな、楽しい」
「脚、痛かったんじゃない?」
好戦的な表情を浮かべる轟くんに悪戯っぽく笑ってみせる。腕から勢いよく綿を溢れさせて、私を捕らえる彼の手を縫いつけるようにぐるぐる巻きにする。
けれども、瞬時に炎熱で燃やされ解かれてしまった。火傷する前に腕を振り払って一歩下がるも、間髪入れず轟くんの炎が放たれた。
「わっ、熱っ」
思わず声をあげ、あわてて横に駆け出した。迫りくる炎を避けながら距離を取り、下方から盛大に綿を放つ。
私の背中からもこもこと押し寄せる白い綿の大波。自分もろとも相手を飲みこんでいく。
名付けるなら『コットンウェーブ』かな。安直?
私を追っていた炎が綿に向かい、あっという間にパチパチと爆ぜながら燃え落ちていった。
しかし、視界が晴れるころにはもう私はそこにいない。
背後から彼の体を抑えつけ、個性で拘束した。
