第11章 Advance
私の呼び声も無視して峰田くんはどんどん先へ走って行く。しかしいつまでもそんな鬼ごっこが続くはずもなく。背後に迫る足音に背筋が冷えるのを感じた。
「ぴーぴー喚かれて逃げられると嗜虐心疼いちゃってたまらないのよね」
背中に鋭い痛みが走り、呻き声をあげる。じんじんする。
ミッドナイト先生の鞭が打ち付けられたんだ。背後を盗み見ると彼女はもうすぐそこまで迫っていた。
苦肉の策だけど、やるしかない。
足を止め、片足を軸に腕を横薙ぎに大きく振った。剥き出しの腕からぶわっと綿が広がり煙幕の如くミッドナイト先生の視界を覆う。
このままじゃ防戦一方だ。なんとかして香りを封じないと──!
しかし、ミッドナイト先生は地を滑り抜けて綿を躱す。低い体勢から防御の薄い私の足元に鞭を向けた。
咄嗟に避けようとするも、バランスを失い砂煙の立つ地面に顎を強く打ち付けた。
「綿世!」
「峰田くん!いいから!早く行って!」
痛みを噛み締め足首に巻きついた鞭を睨む。まずい。このままじゃ、眠らされる。
どうにか解こうと抗うけれどそれは叶わなかった。
恐らくただの鞭じゃない。それもそうだ。ヒーローの使う武器が普通である方が珍しいだろう。
私は剥き出しの肌から綿を生み出した。
綿はミッドナイト先生に向かい、露出した肌を余すことなく覆い隠す。
「あら……」
「この方があったかいでしょう」
ただの綿じゃない。剥がすのに時間がかかるように綿の中に仕込んでいた細い糸を先生の体に巻き付けたんだ。
これで香りは幾分か抑えられる。
「もう一人捕まえるまで貴女は大人しくしてなさい」
にたりと笑みを浮かべるミッドナイト先生。
やがて眼前に近づいてきた妖艶なヒーローは私の胸倉を掴み、薄く開いた唇から吐息を漏らす。全身に冷や汗が滲む。
鼻先まで迫る先生の綺麗な顔。濃く甘い芳香に慌てて息を止めたけれど既に体は力を失くしていた。
花のような、それでいてムスクのような香り。
だめだ……意識が遠のく。
意識を手放す前に、全身から綿を生み出して自分を包み込んだ。賭けだけど……これで……。
やがてミッドナイト先生の手が離れると、私は地に伏せ、綿に顔を埋めて眠りに落ちた。