第103章 伝説(でんせつ)
寝屋に運んだ後
その日はお泊りとなった
あの御前試合まで…
毎週一日は来て泊まりに来ることになった
が…
長老「毎日来いとは言っとらん!!」
恵土「み、見て見て!
今度は書き損じ無しだよ!!」
長老「ふむ…まあよかろう
後は…最後で慌てて走り書きになった点のみじゃの」
恵土「なんでそこおおおお;
ちくしょおおおおお;」
長老「まだまだ精進が足らんわい
まったく…
そんな一朝一夕に出来るか」やれやれ溜息
ふっ
口角が自然と上がる中、それを一人諌める長老だった
御前試合の後…
眠る恵土が起きるまで、長老は付き添っていた
恋人の忘れ形見である扇子
真ん中の2つの中背が折れている
戦火の中で唯一無事だったものだった
それを、対局中もずっと手離さずに持っていたものを手に…眠り続ける恵土を見つめていた
恵土が起きるや否や
対局中でのことを褒め、自ら考え切り抜けたことも合わせて褒めた
そして……
金魚が赤4匹橙6匹描かれた、焦げ茶の木の扇子を
閉じた状態にして、扇面側を右手に持ち、要側を恵土へ向けて差し出した
恵土「!!
え…これ、って…」
長老「ああ
ずっと…
手離せず持っていたものだ
お前にやる
恵土「なんで!!?
恋人の形見でしょ!!?」
長老「お前にやりたい」
恵土「でも!!」
長老「受け取らぬのなら捨てる」
恵土「!!え…」
長老「名を書く」
恵土「え!!?」
長老「まだ半人前…
いや……3分の1人前だから…
『ケ』だけな」さらさら
恵土「じいちゃん…受け取れない
受け取れないよ!こんなの!!」顔を歪める
長老「勘違いするな」
恵土「え?」
長老「お前だから渡したい
お前には先がある
いずれ私は死ぬ
だから…お前に託したい
必ず生きて…幸せになりなさい
私の分も、恋人の分も、友の分も……」
恵土「っ!」ぶわっ
長老「重荷になるなら、捨ててくれて構わない」
恵土「っ」ぼろぼろ
長老「お前は本当に…すぐ泣くな」
恵土「ないでないもん」ぼろぼろ
長老「ないとるわ…
ばかもんがっ」震え、つー
恵土がぼろぼろぼろぼろ泣く直ぐ側で
長老の目から涙が一筋、頬を伝って落ちていった
参加した戦時中(第一次世界大戦満州徴兵)は15歳でした
跡取りとなり、第二次世界大戦にて出兵も無く無事生き残ったものの
恋人と母を戦火により亡くしました
