第37章 遊郭へ
「死ぬ時グルグル巡らせろ。オレの名は妓夫太郎だからなぁあ」
ゆらりと構え上げた両手の鎌を振る。
瞬間、空気がバキャリと割れた。
「!?」
その衝撃の形を明確に捉えられたのは、妓夫太郎と同じ空間にいた天元と蛍ではなかった。
禰豆子と共に建物の外にいた炭治郎だ。
腕の中には、小さな幼女の姿で眠りについた禰豆子を抱いている。
天元の言いつけ通りにかつて母が歌ってくれた子守唄を口ずさんだ結果だった。
母を、故郷を、家族の緩やかな夕日のような思い出を脳裏に走らせた禰豆子は涙を零し、そのまま幼女へと変化して眠りに落ちた。
「なんだあれは…っ鎌か?」
一息ついたのも束の間、建物の屋根と壁から飛び出した二つの鎌に目を見張る。
ギャンギャンと唸り上げながら回転する鎌はブーメランのように遊郭の夜空を回り、再び飛び出した穴へと戻っていく。
炭治郎が対峙していたのは堕姫だ。
その攻撃技は主に帯を使うものだった。
(さっきの鬼帯とは武器が違う。どういうことだ、新手の鬼か? 宇髄さんの血の臭い…!)
状況は掴めないことだらけだったが、悪い方向へ向かっているのは鼻の効く炭治郎には確かだった。
加勢に向かわなければ。
「オレが来たぞコラァ! ご到着だボケェ! 頼りにしろオレをォオ!!」
「伊之助!? 善逸!!…寝てるのか?」
そこへドタバタと荒々しく駆け寄ってきた二名の人影。
天元の速さについて来れなかったが、共に鬼帯を倒し、主である堕姫の下へと駆けつけた伊之助と善逸だった。
安否が不明だった善逸が再び戻ってきてくれたことは嬉しい限りだが、何故だかぷかぷかと鼻提灯を上げている。
気絶しているのか、寝ているのか。それでもふらつくことなく駆けられるところは善逸の特性あってこそだろう。
「宇髄さんを加勢してくれ! 頼む!!」
「任せとけ安心しとけコラァ! 大暴れしてやるよ! このオレ様伊之助様がド派手にな!!」
鼻息荒く宣言する伊之助は、わかりやすくも天元の影響を受けている。
無事な二人の姿に笑顔を取り戻すのも束の間、炭治郎は腕に抱いた禰豆子を背に抱え直した。
眠りについた禰豆子は無力だ、加勢の前に箱に匿ってこなければ。