第37章 遊郭へ
自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら、戦いの場に身を起き続けることは苦しみでしかない。
様々な矛盾や葛藤を抱えながら、それでも人に命を守る為に戦ってくれる。
そんな天元と嫁達には感謝してもしきれない。
耀哉は天元だけでなく、嫁である雛鶴、まきを、須磨にも平等に心を向けていた。
誰一人差別することなく、肩書や情報に踊らされず、男女の垣根も無く自分たちを見て「素晴らしい人だ」と言ってくれた。
はたから見れば「そんなことで」と言われるかもしれない。
その「そんなこと」が日常には無かった天元にとっては、何よりも大きな意味を成した。
初めてこの方の為に尽くしたいと思えたのだ。
「…ん? んんん?」
だからこそ此処で負ける訳にはいかない。
どくりどくりと己の血液の鼓動を感じながら唇を噛みしめる天元に、妓夫太郎が目を止めた。
「ひひっひひひっ」
剥き出しのギザ歯がにんまりと歪み笑う。
「やっぱり毒効いてるじゃねぇかぁじわじわと」
妓夫太郎の毒は、弱い体の人間ならば即死しても可笑しくはない。
その毒を喰らい立ってはいるが、徐々に天元の顔が青白く変化していくのを見逃さなかった。
「効かねぇなんて虚勢張ってみっともねぇなぁあ」
時間の問題だ。この人間もいずれは死に至る。
そう確認が持てる変化だ、笑わずにはいられない。
「いいや全然効いてないね。踊ってやろうか」
それでも天元は退かなかった。
同じに口角をつり上げ笑い返すと、軽い足取りで構えを取り直す。
「絶好調で天丼百杯食えるわ。派手にな!!」
大食漢のかつての炎柱や、現恋柱のような胃袋は持ち合わせていない。
それが虚勢だということは天元自身もわかっていたが、笑みを消す気はなかった。
ドンッと踏み込んだ足で地を蹴る。
攻撃を仕掛ける天元に、妓夫太郎と堕姫もまた瞬時に戦闘態勢に入る。
鋭い刀と鎌の競り合いの中で堕姫の帯が牙を剥くも、しなやかな四肢を駆使した天元の蹴りが安々とその体を真上に蹴り上げた。
「オレの妹を蹴んじゃねぇよなぁあ!」
「このクソ野郎!!」
怒りを素直に押し出す二人に、次に天元が放ったのは火薬玉。
複数の小さな丸い火薬の塊が、暗い建物内で四方に飛び出す。