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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



 しかしどうだ、今目の前に立つ「己は特別ではない」とほざく男は、足元をふらつかせてさえもいない。
 最初に対峙した時に、確かにその額を斬り裂いたというのに。


「俺は忍の家系なんだよ。耐性つけてるから毒は効かねぇ」

「忍なんて江戸の頃には絶えてるでしょッ嘘つくんじゃないわよ!」

「ハッ(嘘じゃねぇよ)」


 歯向かう堕姫に、天元は内心突っ撥ねた。
 今から斬るであろう敵に、いちいち己の生い立ちを説明する気などない。
 そもそもそんな余裕もないことは天元も理解していた。

 忍の家系に生まれた天元の姉弟は九人いた。
 だが十五歳になるまでに七人が死んだ。
 理由は忍の運命そのものだ。死と隣り合わせの職故に、未熟な者は生き残れない。

 一族の衰退を恐れた天元の父は、更に厳格さと冷酷さに拍車をかけた。
 取り憑かれたように厳しい訓練を子供達に仕向け、毒の耐性をつける修行でその毒に負け命を落とした者さえいた。
 故に天元もまた毒に耐性があるだけで、無効にする訳ではない。
 大量の猛毒を受け続ければ、己の肉体にも限界はくる。

 最後に残った天元の姉弟は、父そっくりな目を持つ弟一人。
 父の複写のように、同じ考えを持ち言動をした。
 部下は駒に過ぎず、妻は跡継ぎを産む為なら死んでも構わない。相手の意思は尊重せず、ひたすらに無機質な性格。
 その弟は父と同じ目をしながら、自分とも似た顔を持っている。
 兄弟であるからこそ、自分もそんな男になってしまうのかと恐怖した。
 あんな人間にはなりたくないと嫌悪した。
 だから自分を慕ってくれた三人の嫁を連れて、抜け忍となったのだ。





『辛いね、天元。君の選んだ道は』





 だからと言って真っ当な生き方も知らない。
 血に染まった道しか歩まされてこなかったから。
 そうして辿り着いた、政府非公認の組織、鬼殺隊。
 そこで出迎えてくれたお館様が、天元の全てを変えた。

 言葉で寄り添うのは簡単だ。
 しかし産屋敷耀哉は違った。
 天元よりも幼い瞳の奥には、言葉にはできない"心"があった。

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