第37章 遊郭へ
「肉付きもいいなぁ。俺は太れねぇんだよなぁ。上背もあるなぁあ。縦寸(たてすん)が六尺は優に超えてるなぁ」
褒め称える天元の肌とは正反対に、斑な痣だらけの己の顔をぼりぼりと掻く。
その度に向ける言葉は、羨望というより妬みに近いものだった。
「女にもさぞかしもてはやされるんだろうなぁあ」
掠れた声が段々と低くなっていく。
「妬ましいなあ妬ましいなあ死んでくれねぇかなぁあ」
ぼりぼりと肌を掻く指先が力を増していく。
「そりゃあもう苦しい死に方でなぁ生きたまま生皮剥がれたり腹を掻っ捌かれたり」
ぼりぼり。ぼりぼり。
力のままに掻き毟る指には己の血が付着し、骨と皮だけの浅黒い肌に傷が入っていく。
ただ掻き毟るだけのあかぎれではない。
皮膚を破き、肉に食い込み、鮮血を流させる程の傷だ。
それでも痛みを感じない様子で妓夫太郎は妬み続けた。
「それからなぁ」
「お兄ちゃんこいつだけじゃないのよまだいるの! アタシを灼(や)いた奴らも殺してよ絶対!!」
そこへ涙ながらに堕姫が主張を被せてくる。
「アタシ一生懸命やってるのに…っすごく頑張ってたのよ一人で…! それなのにねぇ皆で邪魔してアタシを虐めたの! 寄って集って虐めたのよぉ!!」
わんわんと幼子のように泣き叫ぶ堕姫には、上弦の威厳など欠片もない。
兄の助けに心を緩めたのか、限界がきたのか。ぼろぼろと大粒の涙を流して駄々っ子のように叫ぶ妹に、妓夫太郎もまた当然の如く応えた。
「そうだなぁそうだなぁ、そりゃあ許せねぇなぁ。俺の可愛い妹が足りてねぇ頭で一生懸命やってるのを虐めるような奴らは皆殺しだぁ」
掻き毟る中から血が滲み、そして瞬く間に再生していく。
己の血がこびり付いた手で、妓夫太郎は禍々しい鎌を強く握り直した。
「取り立てるぜぇ俺はなぁ。やられた分は必ず取り立てる」
ゆらりと下から睨め上げるように、畳から天元へと視線を流す。
妓夫として働いていた人間の頃の記憶はない。
それでも妓夫太郎にはその時の生き方が根本として染み付いていた。
やられたらやり返される。自然の摂理のようなものだ。
妹に手を出されたから兄である自分が敵を討つ。
それが摂理。