第37章 遊郭へ
「生きてるの。ふぅん。思ったより骨がある」
痺れる手で刀を構える炭治郎に、窓枠に足をかけた堕姫がにんまりと笑う。
「目はいいね、綺麗」
赤みを帯びた炭治郎の瞳は、数多の常人にはない珍しいものだ。
希少価値があるものなら喰らう価値も上がるというもの。
「目玉だけほじくり出して喰べてあげる」
その目玉にだけ興味を示した堕姫の帯は、既に鯉夏の姿を全て取り込んでいた。
薄い帯と化した異能物が、しゅるしゅると堕姫の体の周りを纏うように滑る。
それでもあの帯の中には命ある鯉夏がいるのだ。
「っ…禰豆子ごめん、肩紐が千切れた。背負って戦えない」
堕姫が戦う意思を示せば、途端に場の空気がひり付く。
緊張の糸が全身から張り巡るような感覚の中、炭治郎は右の肩紐が千切れた木箱をそっと砕けた瓦の上に置いた。
今は鬼の蔓延る時間帯。箱の中で身動ぐ気配はないが、妹の禰豆子には声が届いているはずだ。
「箱から出るな。自分の命が危ない時以外は」
視線は堕姫から逸らすことなく禰豆子を守る為の忠告をすると、両手で日輪刀を構える。
気道を通る己の呼吸に集中しながらも、全身で感じる緊張の糸に意識を寄せる。
猶予は一秒にも満たない。
炭治郎が瓦を蹴り上げ跳ぶと同時に、堕姫もまた暗い夜空に舞っていた。