第37章 遊郭へ
くんと鼻を鳴らす。
血の臭いはしない。ということは出血していない。
あの下半身を消した体は、物理的に切断された訳ではない。
それでも鯉夏の体が半分消えているのは明白。
明らかに人知を超えた血鬼術の仕業だ。
「その人を放せ!!」
鯉夏に己の正体を明かし、別れを告げた直後のことだった。
鋭い炭治郎の嗅覚は、鯉夏の部屋から漂う微かな鬼の匂いを察知して急遽舞い戻った。
そこで鉢合わせたのが堕姫だったのだ。
口を開いて最初に炭治郎が告げたのは、何よりこの場で大切な鯉夏の救出。
啖呵を切るような炭治郎の怒声に、びきりと堕姫のこめかみに太い青筋が浮かんだ。
「誰に向かって口を利いてんだお前は」
相手は人間としても未熟な少年。
そんな餓鬼に偉そうな口を効かれること自体、堕姫の癇に障った。
瞬間、目にも止まらぬ早さでしなった帯が鞭のように炭治郎に襲いかかる。
「!?」
避ける暇も与えず、帯は炭治郎に重い一打を繰り出していた。
咄嗟に抜刀した炭治郎の刀を弾いて、その体を向かいの屋敷の屋根まで弾き飛ばす。
鋼がぶつかるような鋭い摩擦音を立てて、少年の体を瓦に叩き付けた。
「っ…ゲホッ!」
体の反応は一瞬遅れてきた。
割れた瓦に背中から倒れた状態で、咳き込む炭治郎の脳で一気に情報が流れ出す。
速い。
見えなかった。
上弦。
手足に力が入らない。
体が痺れて──
(っ落ち着け!!)
体は反応できている。
そうじゃなかったら今、生きてはいない。
自分に自分で喝を入れて、震える足腰に力を入れ立ち上がる。
手足に力が入らないのは怯えているからだ。
体が痺れているのは背中を強打しているから当たり前のことだ。
それよりも大事なのは、あの鬼が使う帯。
明らかな異能物。
人間を帯の中に取り込める。だからこそ建物内を探しても探しても人が通れるような抜け道がなかった訳だ。
全てはあの帯を使っていたからこそ。
帯が通れる隙間さえあれば人を攫える。