第37章 遊郭へ
──────────
ぴくりと堕姫のこめかみが筋肉を収縮させる。
上機嫌に眼の前の揺れる帯を見上げていた視線が、ぎょろりと窓先を見た。
場所はときと屋の一室。
上等な餌を捕えることができた。
後は好きな時にじっくり味わうのみだと思った矢先のことだった。
気配がした。
今まで感じたことのない気配。
同時に何度も感じたことのある気配。
特定の組織を前にした時にだけのもの。
「鬼狩りの子?」
鬼殺隊という、鬼の頸を斬ることができる摩訶不思議な刀を持つ人間だ。
「来たのね。そう」
窓先には、見知らぬ少年がいた。
見覚えのある隊服に、やはり腰には今の時代には珍しい刀。
背中には木箱のようなものを背負っている。
「何人いるの? 一人は黄色い頭の醜いガキでしょう」
赤みを帯びた短髪に、同じく赤みを帯びたまだ幼さの残る瞳の少年だ。
鬼殺隊には不細工な者もいるが、その大半は鍛え上げられた若い肉体。
だからこそまだ常人よりは喰らう価値がある。
「柱は来てる? もうすぐ来る? アンタは柱じゃないわね弱そうだものね」
緊張の走る顔でこちらを見てくる少年に、堕姫は余裕を崩さず語りかけた。
鬼殺隊の階級など一目見れば凡そわかる。
目の前の少年は到底柱の実力には届いていない者だ。
「柱じゃない奴は要らないのよわかる? あたしは汚い年寄りと不細工は喰べないし」
悠々と語りかける堕姫に、向かい合っていた少年──炭治郎の見開いた目がその上を見た。
探していた悪鬼に辿り着いたこともさることながら、それ以上に炭治郎に危機感を走らせたのは目の前の光景だ。
生き物のように蠢く躑躅色の帯に、部屋の持ち主である鯉夏の体がぐるぐるに締め付けられている。
それだけならまだしも、目を疑ったのはその体が上半身しか存在しなかったことだ。
口元まで覆った帯は鯉夏の悲鳴一つ許さず、尚且つ上半身は形を残しつつも胸の下からはただの薄い帯本来の形だけを残していた。
トリッキーな手品のように、帯で覆われた鯉夏の体は腹部から切断された人間のような形をしていたのだ。
「…ッ」
声は上げられずとも、恐怖を残す鯉夏の表情は生きている。
眉間に皺を寄せ、頭部を小刻みに震わせ、訴えるような瞳は炭治郎を映していた。