第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
「き、杏寿、郎っ」
「ん? ああ、これを被せておこうか。その方が蛍も安心するだろう?」
裸でいることを躊躇したのだろう、と畳に投げていたバスタオルで蛍の身を隠すように包む。
その気遣いはありがたいものだったが、蛍にとって一番重要なのはそこではない。
ふるふると頸を横に振って視線を自らの体に落とす。
「ぉ…おしり…体重、が…」
「む? ああ、辛いか?」
「つら…くは、ないけど…奥…入っちゃう…」
杏寿郎の腕に支えられてはいるが、体重は少なからずかかるもの。栓をされた後孔の指の存在の主張も増す。
きゅっと頸に抱き付いてぽそぽそと主張を告げる蛍に、杏寿郎は足を止めた。
何故こうも蛍は逆効果となる言動を知っているのか。
煽り癖でもあるのかと思ってしまう程、己の欲を掻き立てられてしまう。
(…違うな。俺が蛍相手となると見境がなくなるだけだ)
しかし今の言動を蛍以外の女性が言ったところで、揺れ動く精神は持ち合わせていない。
己の心は、己自身がよく知っている。
苦笑混じりに一つ呼吸を繋いで欲の乱れを抑えると、杏寿郎はタオルで隠した蛍の体を優しく抱き直した。
「わかった。ならこの指は離すから、自分で零れ落ちないように留められるか?」
「うん…ちゃんと飲み込む」
「いい子だ」
蛍にとってあの簪が何より大切なことは知っている。
ここで自分の欲を優先してしまえば、流石の蛍も従順に従いはしないだろう。
小さく頷く蛍がまだ健気であるうちに、最優先事項を済ませるとしよう。
ちゅ、と頭部に軽く口付けると、ゆっくりと埋めていた指を後孔から抜き取った。
「…んっ」
抜いた指に己の精が絡んでいる気配はない。
鬼の体はもう餌として吸収し始めているのか。
尚も頸に縋る蛍の腕に力が入るのを感じながら、杏寿郎は負担をかけないようにゆっくりと歩み出した。
「…廊下には落ちていないようだな。やはり脱衣所か」
「そう、なの?」
「ああ、俺が探すから。蛍は自分のことに集中」