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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは



 これは藤の家の者達に悪いことをしたと反省する反面、口にはしない。
 そんな事実を告げれば、羞恥真っ只中な蛍は更に殻にこもってしまうだろう。

 まだこの体を抱き足りない。
 本来の蛍を堪能していないのだ。

 鏡はどうにでもなるとして、シーツは水場でも借りて自分で洗うかと即決して開き直る。


「それだけ蛍が気持ちよくなってくれたということだろう? 俺には大変嬉しいことだ」


 それよりも今は目の前の赤らむ花を愛でていたい。
 よしよしと頭を撫でて優しく語りかければ、もそりと男の時より少し小さくなった頭が動いた。


「それにこれは風呂上りの濡れた体も原因だ」

「そう…かな…」

「俺の体は拭き足りなかったかもしれないな。君に夢中で手元を疎かにした」

「そんな、こと…」

「きっとそうだ。俺にも責任がある」


 言い淀む蛍の言葉を遮るように、優しく唇を塞ぐ。
 ゆっくりと顔を離してにこりと笑えば、赤らむ顔はそれ以上後悔を口にすることはなかった。


「じゃあ…杏寿郎が風邪引いちゃう…」

「む。そうでもないが…」

「たおる…あ!」


 もそもそと杏寿郎の上で不安がっていた蛍が、唐突に声を上げる。
 一瞬嬌声の類かとも思ったが、栓をした指は微動だにさせていない。
 はっとした蛍は慌てるように露天風呂へと続く廊下を見ていた。


「あれ…ない…っ」

「どうした?」

「簪…っ私の」

「あれか」

「脱衣所までは持っていたの憶えてるけど、それから先が…」


 その先は揉みくちゃに杏寿郎に責められた記憶で塗り潰されている。
 かかか、と顔を染めて口籠る蛍に、事情を察した杏寿郎は苦く笑った。


「わかった。脱衣所にないか探しに行こう。蛍の大事なものだ」

「え…」

「動くぞ。俺に掴まっているように」

「えっ…ひゃあっ?」


 なるべく揺さぶらないようにと、ゆっくり蛍を抱き上げて立ち上がる。
 縋るように頸に腕を回す蛍に対し、杏寿郎の足腰はしっかりしていた。

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