第29章 あたら夜《弐》
迸り渦巻く精は体を火照らせていくと同時に、飢えた獣の欲望を抑えていく。
熱くも、あたたかい。
途切れ途切れの息を繋ぎながら項垂れる蛍の体を、抱えるように強く抱き竦めていた腕が緩んだ。
「はぁ…蛍…」
「っん…」
頸の後ろでじんじんと感じていた甘噛みの刺激が離れる。
ちゅ、とリップ音を立てて口付けられ、甘さの残る声が耳元で囁く。
ふるりと無意識に蛍の肌が震えた。
「手荒に扱うつもりは、なかったんだが……欲に負けた…」
少し気落ちしたような声に頸を捻れば、肩に重みがくる。
額をそこに乗せて小さな声で己を詰る杏寿郎は、まるで子供の反省会のようだ。
自然と口角が緩むままに蛍はくすりと笑った。
「全然、手荒じゃないよ…杏寿郎に触れられるの、好きだから」
鋭い爪を持つ手で、緩く抱きしめてくる腕に触れる。
「私を抱きしめてくれる、この腕も」
もそりと顔を上げた杏寿郎の唇に、人差し指で触れる。
「私の名前を呼んでくれる、この口も」
熱と気怠さが残る己の下腹部に、両の手を這わす。
「沢山気持ちよさをくれる、杏寿郎自身も」
何にも代えられない、満ち満ちる想いに顔を綻ばせて。そんなことはないと蛍は笑った。
「ぜんぶ私の好きなもの。だから悪いものなんて一つもないよ」
顔を上げた杏寿郎の視線が、そこに釘付けになる。
無意識に身を乗り出して、夜空を背景に微笑む蛍の唇に触れていた。
「杏…?」
触れ合うだけの優しい口付け。
余韻を味わうように静かに重なる唇に、蛍は自然と身を預けるように瞳を閉じた──
「…杏、寿郎?」
否。閉じかけた瞳がぱちりと開く。
下腹部に添えていた掌を離しても退かない熱に、蛍は視線を泳がす杏寿郎を見た。
「杏寿郎の…元気なまま、なんだけど」
「…む」
太く猛々しい陰茎は、勃ち上がれば硬さも張りも主張は強い。
己の腹の中に収まったそれが衰える様子はなく、寧ろ熱さえ感じるような猛りに頸を傾げてしまう。
今し方、精を吐き出したはずではなかろうか。