第29章 あたら夜《弐》
一度は欲を吐き出し、理性を取り戻した。
それも束の間、再び硬くそそり立つ杏寿郎自身は深く蛍のなかに埋まったまま。
軽くでも身動げば感じる違和感に、蛍が目を止めるのも仕方なかった。
「あまりに…その…君が艶やかに、笑うものだから」
「そんな感じで笑ったつもり、ないんだけど…」
「不可抗力なんだ俺には」
珍しくも言葉少なめに、杏寿郎が視線を泳がせつつ言い訳を零す。
その頬はほんのりと色付き、目では逃げるものの腕はしっかりと蛍を抱いたまま離そうとしない。
大きな体と欲を持て余した子供のようにも見えて、蛍はぽかんと開いていた口で弧を描いた。
膣奥で放たれた精液のお陰で、血肉に飢えた身体は満たされた。
しかしその放たれた精のお陰で、じわじわと性の熱が残っているのも事実。
「じゃあ、あと一回だけ。私につき合ってくれる?」
ありのまま、体の一部で感情を示し続けてくれている杏寿郎にどうしようもない愛おしさを感じる。
結局は自分も同じに不可抗力なのだと、心の内だけで言い訳をした。
柔く笑みを称え誘う蛍に、はたと杏寿郎の顔が上がる。
視線は交じり合い、ごくりと喉を鳴らし。嗚呼、と見覚えのある姿に吐息をつきそうになる。
柔らかな膝の上で寝入る間際。微睡みの中で感じた、全てを無条件に受け入れてくれる蛍の姿を思い出して。
「今度は杏寿郎の顔を見ながら、繋がりたい」
身を捩り、少しばかり恥ずかしそうに告げる。
そんな蛍の姿に下半身の熱が高まるのを感じつつ。今だけはと理性で抑え付けて、杏寿郎は目尻を柔めて頷いた。
「ああ。俺もだ」